先への覚悟
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に君は」
それ以上はヤンの言葉にならなかった。
アレスの表情に浮かぶのは――笑み。
そう、過去にヤンが目撃したことがある。
戦いを前にした不敵な笑み。
ゆっくりと唇をあげた、肉食獣のような獰猛さと狂人のような微笑。
なぜ笑えるのか、ヤンは理解に苦しむ。
同時に、彼がヤンに手渡した覚悟に背筋が震えるのを感じた。
手にした封筒がやけに重く感じる。
それを大切に撫でて、懐にしまった。
落ち着けるように呼吸を吐き出して、肩をすくめる。
「また、ワイドボーンに怒られるよ」
「ええ。だから、当日までは黙っていてくださいね」
「それについては、約束しよう。そして、終わったら二人で怒られようか」
「ありがとうございます」
笑顔のままで、アレスはお礼を口にした。
+ + +
「それでは定例会議を終了と……」
「お待ちください」
ビロライネンの言葉を中断させたのは、冷静なアロンソの言葉だ。
発言の主を見て、ビロライネンは不機嫌さを隠さなかった。
隣で、ヴィオラがはらはらと汗を拭いながら、アロンソを見ている。
その視線は言葉を発しなくてもわかる。
余計なことを言わないでくれだ。
先週もそうであった。
アロンソが発言したのは、当日のマクワイルド大尉の動向だ。
マクワイルド大尉から直々に、当日は各艦隊との連携のために前線指揮艦に乗り込みたいとの申し出があったとのことである。
ヴィオラは馬鹿だろうかと思った。
艦隊司令部の作戦参謀に配属されるということは、前線に出ることはなくなるということだ。確かに情報参謀の下であれば、当日に意見を求められることも少ない。さらに言えば、訓練対応の参謀となればやるべきこともない。
当日は分艦隊に乗り込んで、艦隊司令からの命令を伝達する役目になる。
最前線に連携のために乗り込みたいなど正気の沙汰ではなかった。
それを感じているのは、アロンソもそうだったのだろう。
どこか疲弊しての、発言だったことを思い出す。
おそらくはアレス・マクワイルドと何度もやり取りがあったのだろう。
だが、それでも意見を覆すことができなかった。
苦渋の決断だったのだろうが、各参謀の中でも、やり手であろうアロンソをここまで疲弊させるのも恐ろしければ、わざわざ死地に向かう意識もわからない。
わからないが、それはビロライネンにとっては朗報だったのかもしれない。
リバモア少将の言葉を待たずして、それならばと決めたのは最前線も最前線、第五艦隊のスレイヤー少将の分艦隊だ。アロンソ中佐は、せめてとばかりに第五艦隊旗艦にと否定を述べたが、もともと前線に出たいとの意見を出したのはアロンソ中佐だ。結局、ビロライネン大佐の言葉が
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