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獣篇V
38 座布団は獲りに行くものである。
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き終わり、髪の飾りとイアリングを外し、洋梨の形をした木で出来たポーチに仕舞う。

ちょうど良いところに晋助がお風呂から上がってきた。

_「オイ、零杏。風呂いいぜ?」

シャンプーと、仄かに石鹸の香りがする。あとは、煙管の香りだ。

ありがとう、と言って風呂へ向かった。


***

浴室の中の鏡に顔を写す。
鏡に写る自分の顔が、どこか自分の顔ではないような気がする。

そりゃあそうだろう。私には、人格が少なくとも2つ、…否、性格にはそれ以上かもしれない。今は、…「久坂零杏」の人格が一番頂点に立っているが。この状況がいつ変わるのか、は本人である私にも分かるわけがない。

なぜなら、人格(それら)は私であって、私ではないからだ。


だが、いくつもの人格があったとしても、体は1つしかない。いつかは、崩壊するだろう。それが起こったとき…私は、…

死ぬのかもしれない。



唯一の判別の方法は、…そう。
瞳の色だ。


通常の「久坂零杏」の時は、
瞳の色は、碧翠色。

アンナ・イェラノヴァの瞳は、群青色。


そして、(やつ)の時は、…蘇芳色。


今は、碧翠色。よく見ると、少しずつ色が写っては消え、写っては消えしている。今日は、不安定な日なようだ。


***

お風呂から上がると、晋助は枕元に座って煙管を吹かしていた。

_「よォ。上がってきたか。やけに遅かったなァ。どうかしたのかァ?」

_「…考え事をしてたわ。それより、早く寝ましょうよ。」


と言って、お互い布団には入ったものの、私が眠ることはなかった。
否、正確には眠れなかったのだ。



…全く、私はどうかしている。




結局一睡もできずに夜が明けてきた。
隣からは規則正しい寝息が聞こえてくる。



今日は、完全に off の日なので、ゆっくり休むとしよう。晋助が起きたようだ。零杏、と呼ばれて振りかえる。

_「どうしたの?」

さも今起きた風に声色を変える。

_「朝飯、今日はここで食べようぜ?」

_「…ええ。いいわね。」


ルームサービスで、こちらに持ってきてもらう手配をしている。
手配が終わり、暫くすると料理が運ばれてきた。支度が整い、席に着いた私たちが料理に手を伸ばそうとしたその時に、私は急に吐き気を覚えた。
慌てて袖で口を抑え厠に向かうが、出てくるのは胃液のみ。

後から駆けつけた晋助が背中をさすってくれた。

_「お前…大丈夫か?ちょっと待ってろ、船医を呼んでくる。」

_「あり…がとう。」


情けないことに、今は弱々し笑みを浮かべること
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