第73話『顕現』
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それはまるで絶望の象徴。
あらゆるものを燃やし、破壊し尽くすと呼ばれるその竜──邪炎竜イグニスの姿は、見る者全てを脅かした。
今宵、竜は復活を果たし、久しい夜空を見上げて哮っている。
その鳴き声は怒りに満ちており、生きとし生けるものを震え上がらせた。
*
「さて、律儀にここに来る辺り、やっぱ竜って賢いのか?」
「さぁね。ただ、私たちを逃がす気は無いみたいよ」
終夜と緋翼の会話を聞いて、気を引き締める晴登。その傍らには、同じような表情の結月がいる。
場所は、無魂兵と争った広い草原。頂上から駆け下り、イグニスとの決着をつけるために選んだ場所だ。
終夜の言う通り、律儀にもイグニスは晴登たちを追って草原に降り立とうとしている。体高は学校の屋上くらいと言ったところか。見上げるほどの大きさと圧に気圧されそうになるが、結月が晴登の手をしっかりと握って言った。
「ボクが付いてるから、大丈夫だよハルト」
「…それって男の俺が言われるセリフじゃないよね?」
「はは、じゃあハルトもボクを守ってね?」
「はぁ・・・当たり前だよ。もう誰にも奪わせない」
絶対的に強大な敵を前にしても、晴登は不思議と冷静だった。仲間を守るため──それが晴登に勇気を与える。自分にはその力があるのだ。やらずしてどうする。
「お前らは暁運んで逃げろ。さすがにコイツに付け焼き刃は効かねぇ」
「でも……!」
「部長命令が聞けないのか?」
「うっ・・・わかりました」ダッ
終夜は戦えない二年生を先に逃がす。これは仕方のない決断と言えよう。何せ相手は得体の知れない化け物なのだから。
「それにしても、一真さんが"イグニスの抑止力"というのは一体・・・?」
「俺にもわからん。この世界に来て学んだのは刀の振り方ぐらいだ」
魔王が嘘をつく理由は無い。つまり、まだ彼は"目覚めていない"ということになる。イグニスを打破するための力を、彼はまだ自覚していないのだ。
「となると、攻略は厳しくねぇか? 時間稼ぎの耐久戦?」
「満身創痍の私たちでそんなに持ち堪えられるかしら? 一発喰らえば退場だと思うけど」
「要はジリ貧ってことか。もう一真さん頼りだけど・・・」
終夜は流し目で一真を見る。その視線に気づきながらも、一真は言葉を返せない。自分の不甲斐なさを感じているのか、少し暗い表情が印象的だった。
──それでも、晴登にとっては頼れる兄貴分でいて欲しい。
「一真さんなら、きっと何とかなりますよ」
「…随分と子供っぽい慰めじゃねぇか。お兄さん、惨めで泣きそうだよ。でも・・・」
そこで一真は、頬を緩めて晴登に言った
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