巻ノ百四十五 落ちた先でその十
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「この様にな。そしてじゃな」
「はい、これよりです」
「薩摩にか」
「道案内させて頂きます」
使者は秀頼に確かな顔で申し出た。
「これより」
「頼む、ではな」
「家臣の方々もですな」
使者はここで幸村達も見て言った。
「左様ですな」
「うむ、そうしてくれるか」
「無論」
使者は秀頼に一言で答えた。
「家臣の方々のお話も聞いておりますし」
「既にじゃな」
「これより間道を通り」
「そしてじゃな」
「家臣の方々もです」
彼等も皆というのだ。
「是非共です」
「余と共にじゃな」
「薩摩に入って頂きます」
まさにというのだ。
「そして後は」
「薩摩においてじゃな」
「もう屋敷等も用意していますので」
秀頼達が住むそこもというのだ。
「家臣の方々のものも」
「そうしてくれておるのか」
「禄もお出しします」
こちらの用意もするというのだ。
「ですから」
「心配はか」
「はい、一切為さらずに」
そうしてというのだ。
「そのうえで」
「薩摩に入りか」
「お暮し下さい」
「済まぬな、そこまでしてもらい」
「そうすると決めていましたので」
島津家がとだ、使者は秀頼に平然とした顔で答えた。
「右大臣様はお気に為さらぬ様」
「そう言ってくれるか」
「ではこれより」
「うむ、この城を発ってじゃな」
「薩摩にお入り下さい」
使者は確かな声で言ってだ、そうしてだった。
秀頼を薩摩に案内することになった、加藤はこの時秀頼に言った。
「何かお困りでしたら」
「その時はか」
「それがしに何でも言って下され」
「そしてか」
「お力になります」
今もこう言うのだった。
「ですからご安心下さい」
「何があってもか」
「左様です、これでお別れとなりますが」
「それでもお主は余の為にか」
「尽くさせて頂きますので」
「そう言ってくれるか、余は誰かの世話になってばかりであるな」
秀頼は加藤の心を知り瞑目する様にして言った。
「これが余なのか」
「こうしたこともあります」
「戦に負けて落ちればか」
「我等は豊臣のひいては右大臣様の徳をです」
「慕ってか」
「そうしていますので」
だからだというのだった。
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