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2章 生き様
20話 心中
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 そもそも、自分は生きていてはいけない存在なのだ。忘れかけていたことを思い出した。なぜなら、自分は“禁忌から生まれた”のだから。



 そんな思考が、鉄の手すりを強く握らせる。ここから身を投げたら、どんなに楽なのだろう。







 その時だった。一陣の風が吹き、リアの長い髪を揺らす。リアがふっと振り返ると同時に、身体を誰かに抱きすくめられた。


 胸板の感触や、腕の回し方のそれらは、涙が出るほど懐かしく、大好きなもの。


 そして、彼は耳元で漏らす。


「良かった…リア、ちゃんと生きてるんだな…?生きてるよな…?」



 耳元で彼の安堵の言葉を聞きながらリアはつぶやいた。


「ツカサ君…」




 そうつぶやくと、ツカサの回された腕の力が強くなる。リアも思わず抱きしめ返そうと腕を上げるが、すぐにそれは下げられた。


「来ちゃだめだよ、ツカサ君…」


 自分の口から洩れた言葉は、今までにないほど弱弱しく、かすれていた。



「私は、ツカサ君を傷つけようとした…この世で一番…一番、大切な人なのに……」



 涙で視界が滲む。


 だが、ツカサから返ってきたのは、否定でも、肯定の言葉でもない、吐息が混じった笑いだった。

 わけがわからないリアをよそに、そのままの体勢で、ツカサは低いトーンでリアに語り掛ける。
 


「なぁ、リア。…こんなこと言ったら、不謹慎だと思う。だけど、正直に思ったことだから…」


 ツカサは一度そこで言葉を切り、そして


「俺は、リアが俺のために人を殺してくれた事が、ものすごく嬉しかった」

「っ…」

「ああ、俺はこんなに大切にされてるんだなって。別に今までだって分かってたけど、改めて、な」



 嗚咽が漏れないように、リアはぎゅっと唇を噛み締めるのに必死だった。そんなリアのことをわかっているかのように、ツカサは畳みかけて言う。



「でもな、リア。リアが俺を大切に思っててくれるように、俺だってリアのことを大切に思ってる。もし俺がリアが剣に貫かれてるところなんて見たら、俺もそいつを必ず殺してる。」


「で、でも…っ」


 リアは声が震えるのを必死に抑えながら言った。


「自分に課せられた任務を忘れて殺しまわるだなんて…」

「いや、あそこで殺しておいて俺は正解だったと思う。このまま生かしておいたら、倍の犠牲者が出ただろう」

「それに、私はツカサ君にも剣を向けた…!」

「結局、ちゃんと止まっただろう?俺は傷つかなかったし、今こうしてちゃんとここに立ってる。それで十分じゃないか?」






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