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ソードアート・オンライン〜剣と槍のファンタジア〜
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2章 生き様
20話 心中
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望んでいる”。

 だが、一緒に過ごした時間はあまりにも膨大で、記憶の籠を漁っても、なかなか出てこない。そんな自分に対する苛立ちと、刻々と過ぎていく時間に焦りを憶え、ツカサは大きくため息を吐いた。



「リア……」



 ぽつりとその名をつぶやく。いつもはそれで「何?」と柔らかい笑みを湛え、振り返る彼女がいないことが、あまりにも空しく感じた。そう、まさに、「胸にぽっかりと穴が開いた」感じだ。


「どこに行ったんだ……」


 そうつぶやいた時だった。


 頭の中にひらめく一つの場面。






 美しい夕焼け、手すりの奥に臨むのは、アインクラッドから見える雲海、そして、そこにたたずむ一人の少女。身体は横向きで、顔だけこちらを向けた彼女は、いつもとはどこか違う、大人で、ミステリアスな雰囲気を纏っていた。そして、その唇がゆっくり動く。

『ねえ、ツカサ君。私、死ぬならここで死にたいなぁ』








 ひらめいた。ここだ。間違いない。そう確信した次の瞬間、ツカサはメニューウィンドウを開いて、再び装備をしながら玄関の扉を開けていた。


 武器の種類ゆえにそこまで認知はされていないが、ツカサは実はアスナよりも高い敏捷値を持っている。つまり、アインクラッド一の脚を持つということになる彼の本気の走りは尋常ではない。


 まさに颯のように駆け抜け、一分ほどでその身を転移門に躍らせた。









 目の前に広がる雲海は壮大で荘厳だ。それも、茜色にうっすらと染まってきているのも相まって、息をのむほど美しい。リアはそんな景色をぼんやりと眺めていた。



 久々に人を殺した。だが、その実感は“現実世界”よりも確実に薄い。銃の重いリコイルショック、硝煙の臭い、そして真っ赤な液体を飛び散らせて倒れる人間。ナイフで刺し殺したこともある。柔らかい肉にナイフが刺さる感触と、鼻につくかな臭いにおいは忘れようもない。



 それに比べれば、ただポリゴンが散るだけの殺人とは、何と軽いものだろう。


 いや、今のリアが考えていることはそんなことではない。


 今のリアを埋め尽くしているのは、純粋な“恐怖”だった。糸が切れたように理性が吹き飛び、まるで獣のように人を殺しまわる自分が、自分の中にいるという恐怖。そしてさらにそれを上回るのは、ツカサに刃を向けた自分に対する恐怖と怯えだ。





 怒りに身を任せ、目の前の人に剣を振るう。その剣はあっさりとその身に突き刺さり、そして、その人の長い黒髪が揺れ、見慣れた漆黒の瞳が覗く。


 

 想像しただけで、恐怖が腹の底で暴れまわり、怯えで筋肉が硬直する。



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