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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
生存戦 5
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 まぶたを開くと、東から昇る太陽の放つまばゆい光がジャイルの目を射た。

「…………」

 意識がはっきりするにつれて、苦痛の感覚ももどってきた。触手に打たれ、大蛇に噛まれた傷の痛みが。
 だが、思ったほどではない。
 全身を見回すと、スキュラとの戦闘でついた泥と血は丁寧にぬぐわれ、なにかの葉がいたるところに貼られていた。なかには草で縛り包帯のようにしてある箇所もある。

「ヨモギか……」

 ヨモギの葉を揉んでその汁を傷口に塗り、その上に汁を絞ったあとの葉を貼る。
 天然の膏薬だ。
 スキュラから負わされた傷のほとんどは跡形もなくふさがり、治っていた。
 気を失う寸前、だれかが治癒魔術を唱えたことを思い出す。あれは幻聴ではなかったのだ。
 この手当てもその治癒魔術の使い手によるものだろう。
 近代の法医呪文(ヒーラー・スペル)は基本的に対象の自己治癒能力を増幅させて傷を癒すという方式が主流である。
 だが、その行為は人体の異常な生命活動を促進させるもので、被施術者の身体には多大な負担がかかってしまう。
 欠損や骨折、内傷などはただ闇雲に法医呪文をかけるだけでは後遺症が残ってしまうことが多い。
 そこで法医呪文の施術のさいに適切な前処理や外科的処置が必要とされる。
 治癒補助薬の選択や調合などに長けた専門家がいれば、治癒効率は格段に増して身体の負担は極限まで軽減されるのだ。

「気がついた?」

 声のほうを見ると、華奢な少女のシルエットが朝日を背にして立っていた。エナだ。

「無事だったみたいだな」
「ええ、ナイトメアにやられて気を失ったけど、ケガはしていないわ。服はボロボロになっちゃったけど」

 エナはくやしさに顔を歪めてジャイルの前にしゃがみこむ。

「目が覚めたらみんな終わっていて、まったく情けないったらないわ」
「俺は、スキュラを倒したのか?」
「ええ、そうよ。むこうに死骸があるわ。すごい死闘だったみたいね」

 ここはスキュラと戦った水辺ではない。最初に野営していた場所だ。

「気を失う前にだれかが呪文を唱えるのを聞いた。あれは、たしか【ライフ・ウェイブ】。おまえかハインケルが唱えたのか?」
「いいえ。残念だけどわたしもハインケルも【ライフ・ウェイブ】は使えないわ」

 そうだろう。【ライフ・ウェイブ】は遠距離に治癒魔術を飛ばすことのできる【ライフ・アップ】の上位呪文。学生で使える者は限られている。ジャイルの知る限り今回の生存戦の参加者で【ライフ・ウェイブ】の使い手はいない。
 少なくともストリックランド側には。ということは――。

「ジャイル!」

 ベニアーノとルネリリオが喜色を浮かべて駆け寄ってきた。

「お、おまえら!? 無事だったのか?」


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