第二章
[8]前話
「いなくなってもらうよ」
「左様ですか」
「それは不都合だからね」
「旦那様にとって」
「私は誰にも知られるつもりはないよ」
自分自身のこと、それをだ、
「絶対にね」
「左様ですか」
「私の正体は誰にもね」
性別も本名も自分の本来の職業も全てというのだ。
「知られてはいけないからね」
「それ故に」
「誰にも何も言わず」
そしてというのだ。
「これからも仕事をしていくよ」
「左様ですか」
「その為には何でもするしね、では」
「今宵もですね」
「仕事に行くよ」
「それでは」
「帰って来るよ、必ず」
平気な、まるで表の世界で大学やアルバイトに行く時の様に言った。
「そして帰ればね」
「お祝いのシャンパンをですね」
「用意しておいてくれるかな」
「それでは」
執事は自身の主にクールに頷いた、そしてだった。
朱雀は裏の世界の腕利きだが裏の世界でも非常に評判の悪い三人の兄弟と共に仕事に出た、そうして帰って来たのは彼だけだった。朱雀は一人で帰ってから平然としてこう言った。
「惜しい人達だったよ」
「またあいつだけ生きて帰ったか」
「三兄弟を友達と言っていたが」
「その友達が死んでも平気だ」
「平気な顔でいるな」
「何処が友達なんだ」
このことを察して言うのだった。
「あいつにとって利用出来る相手が友達か」
「だとすれば余計に信頼出来ないな」
「あいつと仕事をすることが怖いな」
「全くだな」
「正体もわからないしな」
裏の世界ではこう思われていた、それでだった。
裏の世界の者達は次第に朱雀から離れていった、しかし彼は巧言や金、色仕掛けを以てその都度「友人」達を作っていった。そうして仕事を成功させていった。だから彼はいつも多くの友人達がいる自分は幸せだと言っていた。そうして何時までも裏の世界で仕事を続けていった。世の中裏の世界でも騙される者が多いものだと彼を知る者達はぼやいたがそれで終わりだった。
謎の素顔 完
2018・7・18
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