289部分:第二十一話 見てしまったものその六
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第二十一話 見てしまったものその六
「それでも。恥ずかしいから」
「私達のことを知られるのがですか」
「そうだよ、それがだよ」
まさにそれであった。
「どうにもさ」
「そうなんですか」
「だからこっちの親父にもお袋にも言ってないけれど」
「言ってもいいと思いますよ」
「どうもさ。それはさ」
そう言われてもだった。それはどうしても恥ずかしい陽太郎であった。それで口をくぐもらせてしまっているのだ。
「それは?」
「いや、言いにくいっていうかな」
陽太郎は口ごもりながらさらに話す。
「あれだよ」
「あれって」
「付き合ってる人の家に行くのはさ」
「行きにくいんですか」
「どうしてもな。俺が勇気がないだけだけれど」
「それでもですよ」
その陽太郎にだ。月美が話すのであった。
「若し結婚とかになったらですよ」
「おいおい、結婚なんだ」
「はい?」
「それって。あのさ」
「だって。交際したらですよ」
「結婚までなんだ」
「はい、宜しく御願いします」
あくまで天然な、悪気がないままで話す月美であった。
「ずっと」
「そうだよな。女の子は十六歳だったよな」
「男の子は十八歳ですね」
「結婚できるよな」
「はい、できますから」
「流石に高校卒業してすぐはあれだけれど」
陽太郎は大学に進むつもりだ。それは月美も同じである。八条高校はレベル的には進学校と言ってもいい立場でありそうしてだ。大学が上にある。そこに進学する者も多いのである。それで戸惑った口調になっているのだ。
「それでもさ」
「それでも?」
「大学を卒業して。就職して」
「はい」
「その時になったら」
「はい、御願いします」
「わかったさ」
流れに従ってだったがそれでもだった。陽太郎の声は確かなものだった。
「それじゃあその時になったら」
「私も」
「いや、ひょっとして」
ここでふとこう思った陽太郎だった。
「まさかと思うけれどさ」
「何ですか?」
「月美の家に行くのってその時だけじゃなくて」
「何時でもですよ」
やはり天然のまま話す月美だった。こうしたことには疎い彼女だった。
「来て下さいね」
「ううん、そう来るか」
「それで私も」
「ああ、その時になったらさ」
「はい、その時ですね」
「家に呼ばせてもらうさ」
彼女を自分の家に呼ぶことは怖じ気付いていたのだ。こうしたところは奥手というべきだった。陽太郎自身の言葉では勇気がないのだった。
「それでいいよな」
「はい、それじゃあ」
「じゃあさ」
陽太郎は話を終えて上を見上げた。夜空には月がある。半月になっていた。
「暫く月を見てさ」
「見ますか」
「うん、それから帰ろうか」
「そうですね。それからですね」
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