第三章
[8]前話
「魔を降すな」
「不動明王とかがそうですね」
「不動明王はその中でも最強だ」
そう言っていいというのだ。
「最強の明王だ」
「そうですよね」
「そして君はだ」
「明王みたいなものですか」
「そうなってきている、だから君を見るとだ」
今の縁、彼をというのだ。
「悪い奴が逃げ出しているのだ」
「そうですか」
「それで君はこれからだ」
部長は縁にさらに言った。
「より己を鍛え強くなりだ」
「明王の強さをですか」
「完全に身に着けることだ、本当に強い者は喧嘩しないというな」
「その言葉は俺も知ってます」
聞いてはいる、しかしそれを実践出来たことはない。悪い奴を見るとどうしても向かって行かずにはいられないからだ。
「ただ。俺は」
「今までは違ったな」
「喧嘩ばかりしていました」
「だがそれをだ」
「これからはですか」
「そうだ、実際に君は変わってきている」
プロレス研究会に入り彼を見ただけで悪い連中が去る様になってだ。
「それもかなりな」
「だからですか」
「このままだ」
「変わっていくべきですか」
「これまでの君は言うならば仏になっていないはねっ返りだった」
それに過ぎなかったというのだ。
「しかし明王という仏になろうとしている」
「そうですか」
「だからだ」
それでというのだ。
「これからはさらにだ」
「己を鍛え」
「強くなることだ、いいな」
「そして明王になることですね」
「そうだ、プロレスを通じてなれ」
「そうですね、俺は今以上にです」
まさにとだ、縁も部長の言葉に頷いて述べた。
「強くなります」
「そうなるな」
「そして喧嘩をせずとも悪い奴を懲らしめられる様になります」
「そうだ、君を見ただけでな」
「そこまで強くなります」
縁は部長と約束した、そして実際にだった。
彼はプロレスのトレーニング、試合も含めたそれにさらに励んでだった。さらに強くなっていった。そうして。
高校を卒業して本物のプロレスラーになり子供達に悪いことはせず心身を鍛えて本当に強い人間になれと言った、多くの子供達が彼の言葉に従った。その彼のレスラーとしての通称は明王となった。魔即ち悪を降す存在と完全になれたのだ。
プロレス同好会 完
2018・7・17
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