第一章
[2]次話
令嬢の好物
サチは帝国の田舎貴族の娘だが帝都の学校に入学してからその優秀さを見出されて皇子の学友の一人にも選ばれた。
成績は学校でトップクラスであり真面目な性格も評判だ、だが。
その喋り方についてだ、周りは言うのだった。
「あの、どうしてですの?」
「サチさんはその喋り方ですの?」
「前から思っていましたけれど」
「どうしてその喋り方ですの?」
「あかんかのう」
サチは彼女の喋り方で友人達に返した。
「わしのこの喋り方」
「あの、何といいますか」
「敬語が苦手と聞いてますけれど」
「それでもその喋り方は」
「何かこう」
「わしもわかってるんじゃ」
サチは上品な貴族らしい振る舞いと口調で答えた、しかし出す言葉は非常に独特のものであった。
「自分でもな、しかしじゃ」
「それでもですの」
「その喋り方ですの」
「そうですの」
「わしの領地の喋り方でじゃ」
それでというのだ。
「生まれてからずっとこの喋り方じゃ」
「そうですの」
「では子供の頃からですの」
「その喋り方ですのね」
「そうなんじゃ、お屋敷の執事さんもメイドさんもじゃ」
そのまま喋るサチだった。
「皆この喋り方でお父ちゃんもお母ちゃんも兄ちゃん達もじゃ」
「ご家族の方々もですの」
「その喋り方で」
「それで、ですの」
「そうじゃ、何とか敬語を身に着けたいが」
しかしというのだ。
「難しいのう」
「そうですの」
「口調はそのままですのね」
「そうじゃ、悪いが慣れてくれるかのう」
こう言ってだ、サチはその喋り方のままだった。だが礼儀作法はしっかりとしていて品性は備えていた。
そしてその喋り方でだ、皇子にも言うのだった。
「皇子さん、ちょっとええかのう」
「な、何かな」
皇子はサチのその喋り方に引きながら応えた。
「一体」
「飴あるんじゃが」
「あっ、サチの好物だね」
「そうじゃ」
それがあるというのだ。
「わし今それ持ってるんじゃが」
「僕にもくれるか」
「舐めるか」
皇子に礼儀正しい仕草で尋ねた。
「そうするか」
「それじゃあね」
「飴は美味いけんのう」
上品に笑ってだ、サチは言うのだった。
「暇な時とかに舐めると最高じゃ」
「そうなんだね」
「だからじゃ、皇子さんも舐めたらええ」
「それじゃあ一個貰うね」
「おう、貰ってくれや」
サチは皇子に笑顔でペロペロキャンディを差し出した、そしてだった。
皇子はその飴を優雅な手つきで受け取り舐めた、その飴は実に美味いものだった。
とかくサチは飴が好きだ、それで毎日の様に舐めている。その彼女にクラスメイト達はあらためて尋ねた。
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