暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
Alicization
〜終わりと始まりの前奏〜
神立
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花を一本刺しただけで国賓を迎えられる日本の皇室もいい勝負だと思う。

さて、その日本から届いた報をロクに吟味せずに飛び出してきたヴォルティスを止める影があった。

「はーい、叔父上。ストップよ」

「……キャーリサ」

廊下の奥まった暗がりからゆらり、と現れたのは、真っ赤なドレスを着こなす二十台中盤ほどの女。華美なドレスなのだが、ところどころにレザーがあしらわれているため、どこかボンテージものの印象を受ける。

第二王女、キャーリサ。

爵位を口実に、権謀術数の権力闘争から追い払われた半端者である自分と違い、英国王室次期女王の継承権を握る者。

生まれただけで歴史の教科書に名が載せられる、間違いなく英国のトップに名を連ねるその人だ。

「相変わらず叔父上の脳細胞は灰色ではなく筋肉で構成されているわね。こんなご時世にいったいどこに行こーとしてる訳?」

「止めるな、キャーリサ。お前と争いたくはない」

剣呑な輝きの増した偉丈夫の視線を舌なめずりするように受け流し、キャーリサは軽く鼻で笑う。

「正当な女王候補である私とぶつかれるとでも?」

「我としては避けたいところだが、正面から張り合ったところで分が悪いのはお前だ。伯母上から聞いてないか。本来の正統な血統がどちらなのか。我が何のために後宮に甘んじているか」

チッ、とキャーリサは露骨に舌打ちをした後、サディスティックに目元を歪ませた。

「――――けど、現女王の命なら聞かない訳にはいかないでしょーが」

「なに……?」

思わず歩を進めようとしていた脚が止まる。

その一連を楽しげに見ていた第二王女は嗜虐心たっぷりに腕を上げた。ほっそりとした指の先が示すのは、ヴォルティスの背後。

振り返ると、いつの間にかひっそりと立っていた使用人が大型のラップトップPCを広げたところだった。初めから電源が付いていたのか、画面には一人の老練な女性が映り込んでいる。

「伯母上……!?今はスコットランドで公務中なのでは!」

狼狽する偉丈夫の声に、年老いた一人の女性は通信のラグであろう一拍の時を置いてこう切り出した。

『急遽時間を作り、そちらから掛けています。そして()()()()()()()()、言葉を慎みなさい。私は英国の女王です』

「――――――ッッ!!」

叔母が、甥にかける言葉の重みではなかった。

そこには一国を導く長としての《芯》が、確かにあった。

個人では決して入ることのない強く硬い《底》があった。

画面の向こう側であるのに対し、明らかに空気の質が変わる。ヴォルティスをして思わず頭を下げるしかない王の気質が、そこにはあった。

「……失礼を、女王」
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