第一章 始まりの戻し旅
Ep3 天使と悪魔
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フィオルはベッドから身を起こし、リクシアを見ていぶかしそうにする。彼は首をかしげてアーヴェイを見た。
「アーヴェイ。この人、誰?」
ああ、とアーヴェイは答える。
「彼女はリクシア。命の恩人だ」
「命の恩人? 珍しいね、アーヴェイが後れを取るなんて」
「お前を守りながらだったんだ、仕方ないだろう。その時、お前は気絶していた。……リクシア、オレたちは義兄弟だ。普通にアーヴェイと呼べばいいものを、こいつは時々兄さんと呼ぶ。義兄弟の契りを交わしたって、呼び名まで変える必要はなかろうに」
なるほど、そういうことかとリクシアは理解した。
義兄弟ならば外見が似る必要はない。この二人の過去に何があったのかはわからないが、そういうわけで時々フィオルはアーヴェイを「兄さん」と呼ぶらしい。
アーヴェイは身を起こしたフィオルを支えてやりながらも、紹介した。フィオルは心配しすぎるアーヴェイの手を鬱陶しそうに振り払った。
「こいつは大召喚師リュクシオンの妹。オレたちと同じ、大切な人が魔物化した人間だ。大切な人、つまり兄のリュクシオンを元に戻すために旅をしているそうだ。オレたちと同じだよ。――運命の被害者」
「……運命の被害者、ね」
何か思うところがあるのだろう。フィオルはふっと黙り込んでしまった。
リクシアは考えていた。
――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。
理不尽な、あまりにも理不尽な、理不尽すぎる絶対法則。その法則のおかげで、全てを失った兄は魔物化し、世界を揺るがす災厄の一つになり果てた。なぜ、なぜ、何のために。こんな法則が存在するのか。こんな、害悪にしかならない、悲しみを振りまくだけの法則が。
(旅をすれば、いつかわかるかな)
魔物化した大切な人を、泣く泣く手に掛けたたくさんの人々。魔物化が解けて人間に戻った物言わぬ遺体を見て、空も裂かんとばかりに上がる悲痛な慟哭(どうこく)の声。兄に守られる平和な日々の中でも、リクシアはそれを何度も目にしたことがある。人は簡単に魔物になるのだ。そして魔物に殺された人の遺族が、深い悲しみにとらわれて魔物化する。こうして悲しみは連鎖する。
戦があれば、魔物は増える。増えた魔物によって絶望を味わった人が、さらに魔物になり、その大切な人もまた絶望し、魔物になる。魔物になった大切な人を見た人もまた、魔物になる。一家全体が魔物になった例も数多くある。それは、終わりなき負の連鎖。
リクシアが兄を戻したいのはもちろんだし、それが非常に難しいことも分かっているけれど。
「それじゃあ、根本的な解決にならない……」
神様なんていない。けれど、神様ならなんとかできるだろうか? そんな夢物語にだって、縋りたくなる時がリクシアにはある。それを言うならばこの旅は、魔物となった兄
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