獣人と女の子
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ることを止め、独り言しか喋らなくなった今のオレ(化物)は誰かに応える事なんて出来なかった。
「これ、食べますか?」
少女が渡してきたのは真っ白で、見るからにフワフワしたパン。見ず知らずの、しかも化物に何故そんな事が出来る。何故、そんなモノを渡すことができる。
オレは、口を開けていた。だが、その口は思いの外開いてしまい……先程の思考に引っ張られ、少女の細く美しい手も齧ってしまいそうな────
─────バクリ
オレはパンを租借した。久し振りの、人間らしい食べ物。水分が無くてもその美味さは口に、身体に、心に染み渡る。一分もしないうちにパンはオレの手からも、少女の手からも消えていた。
「すごいすごい! 町のお兄さんでもそんな早く食べられないよ!! ねぇ、お兄ちゃんは何? 教えて!」
ピョンピョンしながら少女はオレの事を褒めてくる。その鮮やかな紅の眼でキラキラと見つめてくる。
「オ、レ……」
オレは……オレは──────────
「オレは、お前と、同じ、人間、だ」
辿々しく、オレは彼女に、自分に言い聞かせるように彼女の質問に返答する。同時に、自分がもう人間ではないと証明してしまったような気もした。
「そうなの! お耳は尖ってるけど……2つ、同じ。おめめは2つだし、色もお兄さん達と……同じ」
少女は悪意なくオレの顔をペタペタと触ってくる。煩わしい、だが何故か安心できる。
「お鼻は──」
「……くすぐ、ったい」
「あ、ごめんなさい」
鼻までも触られて、咄嗟に言うとシュンとなって謝った。その行動が、とても愛らしく思えてきた。
「お口は大きい……でも1つ、歯は形がちょっと違う……でも同じ。ここだけはお兄さん達と違ってフワフワ……」
最後には抱きつかれてしまった。その顔は敵意も、悪意も、奇妙な好奇心も存在せず純粋な好意を感じとることができた。
「お兄ちゃん、色も大きさも違うけど私達同じだね!」
ああ、オレは、おれは、この言葉が欲しかったんだ。化物と呼ばれて、迫害されて、追いかけ回されて、拒絶されて、否定されて、理解されなくて──誰かにオレのこの、オレでも受け入れられない異形を受け入れてほしかった。
「あたしはブロン! お兄ちゃんのお名前教えて!」
少女──ブロンが依然として抱き着きながらオレの名前を聞いてくる。
「おれは──」
咄嗟に、おれの名前を言おうとする。だが、おれはあの時、死んだんだ。今この場に居るのはオレだ。この、黒い毛で身を包んだ獣であり、人間であるオレなんだ。
「オレは、ノア」
「ノア! よろしくね!」
さようなら、おれ。
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