再会
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ている山内家に代々憑いている式神。
「ああッ!? なんで当たらねえんだよ、クソがっ!」
男の目にはこの異様な生き物の姿が映っていないようで、二度もナイフがはずれたことにいら立っている。
『膿血タチマチ融滌シ、臭穢ハ満チテ肪脹シ、膚膩コトゴトク爛壊セリ、人ノ死骸ハ數かず知ラズ』
グミの実のように小さく血の色をした目を鈍く輝かせ、黒い翼を広げたおからすさまがドリルのような嘴を揺らし、人の言葉で唄う。
『餐ワセ給エ人ノ髄――萬里ガ間ニ音モセデ、地ヨリ湧キタル血ノ泉。十悪五逆ノ咎人ノ、頭ヲ連ネテ頭ヲ連ネテ六道地蔵ガ骸喰フ。サテモ目出タノ宮詣リ。ひとふたみよいつむにななやト言ヒ候ヨ。夜ノト夜ノト御伽ニヤ、身ガ参ロ身ガ参ロ――餐ワセ給エ人ノ髄――』
殺そうと、山内くんに訴えかけているのだ。
はやくわたしにあいつを殺せと命じてください。そうすればわたしの嘴であいつの頭を穿ち、脳髄を一滴残らず啜ってみせましょう。
そう言っているのだ。
いいだろう、好きなだけ貪るといい――。
殺れ。
山内くんの口から処刑宣告が放たれる、その直前。軽快な足音とともに背後にふわりとした風の動きが生じた。
「よっと!」
「わっ!?」
だれかが山内くんの肩に身軽に跳びついてきたのだ。
うしろから手をかけて跳び箱を跳ぼうとするかのように地を蹴って、ひらりと舞うような動きでかれの前に回りこんできたのは女の子だった。
年齢は山内くんとおなじくらい、すらりとした肢体にさらさらとした髪が陽光を受けて琥珀色に輝いて見える。
鼻腔をくすぐる甘い香り。
女の子に飛び越された。つい先ほど感じた柔らかな重みに、今さらながらどぎまぎする。
「自分を見失うなよ、山内。でないと闇に、禍津御座神に喰われちまうぜ」
「こ、紺!?」
秀でた額に切れ長の目、細くすっきりした眉は美しさだけでなく聡明さも感じさせ、形よく整った鼻梁の下にある桜色をした硬質の唇から青い火が妖しくゆらめいている。
十妙院紺。
去年の夏、人ならざるモノどもを相手に、ともに死線をくぐり抜けた少女の姿が、そこにあった。
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