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山内くんと呪禁の少女
再会
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ぎりは』
 危険にかかわらずにすむ道があるなら、かかわらないに限る。逃げられるときは逃げる。それが訓えだった。
 『武道家の拳は刀といっしょです。刀はつねに磨いておかなければなりませんが、抜かないに越したことはありません。生涯に一度あるかないかのいくさ場≠生き抜くために刀を磨くのです』
 『ただし――』
 師範は逃げろと勧めた後にこう言ったのだった。
 『良くも悪くも人は野生の獣にはなりきれません。自分の身の安全よりも優先する大事なことがあるなら、それが人としてどうしても譲れないものなら、そのために戦うことを止めはしません』
 『力愛不二。道理の通らない悪人を前にどのような正論を唱えたところで通じません。そのような悪人の蛮行から身を守る力が無ければその人は無力です。どんなに強い腕力や優れた知力。莫大な財力や権力を持っていたとしても、その使い方を誤れば、それはただの暴力にすぎません。力なき正義は無力であり正義なき力は暴力です。力と愛が一つとなる陰陽の思想。これが力愛不二です』

 そして山内くんにとって、身の安全より優先するものはパパの教えだった――
 筋を通せ。
 
「おら、とっとと出すもん出せっ」

 ピアス男が山内くんの顔にむかって拳を振るった。容赦のないパンチだ、まともにあたれば鼻血くらいは出るだろう。
 山内くんは眼前に迫る拳を目で見ながら、あえて受けた。鼻でも口でも頬でもない。額で受けた。

「ッ痛ぇ!」

 だが痛みに声をあげたのは殴られた山内くんではなく、殴ったピアス男のほうだった。
 前頭骨は肘と並んで人体でもっとも硬い骨のひとつだといわれる。山内くんは男の攻撃をしっかりと視認して打撃点(ヒットポイント)をずらし、みずから額で受けたのだ。
 最小限のダメージにおさめた山内くんにくらべ、ピアス男は自爆したようなものである。

「先に抜いた≠フはそっちだ……」

 山内くんの心の中で白刃が鞘走る。

「はぁ? んだよ、クソがぁ、こいてんじゃねえぞクソガキ」

 こんどは八つ当たりに高橋にむかって蹴りを入れようとするが、それよりも速く山内くんが動いた。
 膝の真横。けっして鍛えることのできない間接部分を狙い、上から叩きつけるような下段蹴りを打つ。
 手加減は、しない。
 ピアス男の足はぶきり、と嫌な音をあげて本来ならば曲がらない方向にむかって微妙に曲がった。
 クリーンヒット。絶妙のタイミングとスピードで決まった山内くんの攻撃にピアス男の姿勢が崩される。
 この機を逃す手はない。頭の位置が低くなったので顔面に膝蹴りを叩き込むと、弾かれたように上体を反らして派手に地面に転がる。
 手ごたえあり、ひとり撃沈。

「早く逃げて!」

 状況を把握できず固まっている高橋を叱咤
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