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満願成呪の奇夜
第24夜 正答
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としたら。

 彼女はきっと、誰よりも優しく温かい心を持った人間なんだ。

「彼女の価値を見抜けなかった貴方がたに、ギルティーネさんを預けたくない。どうです?俺の方が貴方たちより何倍も、彼女を有効に活用できます。彼女を牢屋に閉じ込めて厳重に鎖で縛るという無駄な手間を、ここいらで省きませんか?」

 彼に情で訴えても意味はない。ただ、利益と事実を突きつける。
 長い沈黙を経て、項垂れる教導師が絞り出した返答は――是、であった。



 ――その後ろで、ギルティーネの瞳から一筋の滴が零れ落ちていた事に気付いたのは、それから暫く後になってからの事だった。


 その涙の意味は、利益追求の為に彼女の所有権を主張する非情な男に目を付けられた悲しみか。或いは、自分を助けるために何とか相手を説き伏せようとするみっともない男に何かを感じたのか。
 トレックには、その答えはいくら考えても分からなかった。
 
 その日のうちに二人はローレンツ大法師に遅れて祝辞を賜り、朱月の都へ向かう馬車に揺られた。隣に無表情な少女を座らせながら、彼女にどう思われようとも朱月の光の届く場所にいさせ続けようと覚悟を決めて――。



 = =



「そこの兄ちゃん!」
「はい?」

 振り返れば、最近評判だという「生魚の料理を出す店」の店員らしきおじさんが、こちらに手招きしていた。昼下がりの都、サンテリア機関の休息日に町に繰り出したトレックはその声に立ち止まる。人の好さそうなおじさんだった。

「お昼がまだなら寄っていかないか?今なら特別特価だよ!」
「そりゃ、構いませんけど。ここ、評判がよくて席の予約取れないんじゃないですか?」
「それがよ、今日のこの時間に予約して若いのが席を一つ取ってたのに、連絡が全然取れねぇんだよ。前金も貰って料理まで用意したのに誰も食べないんじゃ貴重な魚が勿体ないだろ?お値段は300マルンでいいよ!」
「300マルン!?そりゃちょっと安売りしすぎじゃ……でもまぁ、いいか。ちなみに量はどれぐらい?」
「3人前だ。食べられるだけでいいよ」
「ああ、いえ。3人前なら多分なんとか………ギルティーネさん、魚が食べられるなら着いてきてよ」
「ん?……ああ、なんだ二人いたのか!兄ちゃんが陰になって見えなかったよ!」

 トレックは、すまんすまん、と軽く謝る店員のおじさんに会釈して、店の中に入っていった。
 どこまでも無表情な少女の手を、優しく引きながら。
 
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