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満願成呪の奇夜
第24夜 正答
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は、これまで傷に口を当てて血を啜っていたのは――」
「啜っていた訳じゃなく、賢明に助けようとしていた、と考えるのが自然ですね」

 これが聞いて呆れる『人喰いドーラット』の正体だ。

 彼女がトレックの傷を舐っていたのは見間違いなどではない。彼女はその口で治癒術を発動させて、必死に傷を塞いでいたのだ。それも、夜明け頃には致命傷だった傷を全て塞ぐほどに強力な力で。
 これまでのパートナーは恐らく今一歩治癒が間に合っていなかったのだろう。しかし、今回トレックは運よく治癒が間に合った。だからこそ気付けたのだ。

 『そもそも、彼女が治癒術を使えるという根本的な事実に』。

 一般的に、属性とは三つ使えるなど稀である。歴史上初の五行使いである自分は別として、四行使いもまた幻と言っていい存在だ。
 不幸な事だがそれ故に、彼女を管理する組織は三行まで確認したところで彼女を三行使いと誤認したのだろう。もとより『流』は扱いが難しいため使い手が限られ、また彼女は言葉を操ることが出来ない。その不幸に加え、パートナーが致命傷を負うという不幸が重なったことで彼女の天才的な才能は他人に観測できなくなっていたのだ。

 もう一つの不幸は、彼女が戦士として強すぎた事だ。戦いにおいて自らが傷を負うことがないしパートナーも基本的には護り切れるために『流』の属性を使う機会に恵まれず、また荷物の事前準備が出来ないから触媒に水を選ぶことさえ出来ない。その不備を訴えることも、彼女の欠落は許さなかった。

「だが、触媒はどこだ!触媒原則なしに治癒は成立しない!」
「彼女の触媒は、彼女自身の唾液と傷を負った者の血液です」
「………馬鹿げている。唾液は微量すぎるし、血液は確かに理論上『流』の触媒にはなるが、同時に『錬』の触媒、二重触媒だ。二重触媒は二属性を同時に発動させれば機能するが、どちらか単体での触媒使用では触媒効果が損なわれる……」
「確かにそうです。しかし、ならば俺の腕がこうもきれいに再生された理由は何だとお思いか」
「つまり、貴様は――こう言いたい訳か。そんな僅かな触媒で術をモノにする程に彼女の治癒は強力なのだ、と」

 認め難いとばかりに、教導師は吐き捨てるように言った。
 彼がそれを口にした以上、もはやそれ以外に理由が見当たらないということだ。

 トレックは思う。彼女はもしかすれば、最初はそこまで『流』の属性を使えていなかったのかもしれない。しかし最初のパートナーを失って、次は死なせたくないと体を鍛えながらも治癒の術を鍛え、それでもまたパートナーを死なせ、それでもまだ死なせたくないと運命に立ち向かったのではないか。

 執念、あるいは慈愛。
 人を死なせたくないという余りにも強すぎる願い。
 それが彼女の治癒術をここまで鍛え上げたのだ
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