巻ノ百四十四 脱出その八
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「天下の豪傑である十勇士も揃っていれば」
「それで、ですな」
「はい、鬼に金棒です」
幸村に加えて彼等もいればというのだ。
「ですから」
「それでは」
「どうぞ薩摩まで落ち延び下され」
「そしてそこで、ですな」
「右大臣様をお護り下さいますよう」
「それでは」
「すぐにお乗り下され」
船にとだ、そうしてすぐにだった。一行は変装をしたうえで密かにその用意された船に乗り込んでだった。
海に出た、秀頼は海に出るとすぐに幸村に尋ねた。
「ではじゃな」
「はい、間もなくです」
幸村はすぐに秀頼に答えた。一行は船底にいてそこで話をしているのだ。
「加藤殿の船に移り」
「そうしてじゃな」
「まずは肥後に入ります」
「あの国にか」
「そしてです」
肥後に入りそうしてというのだ。
「それからはです」
「薩摩と言っておったな」
「そこで過ごして頂きます」
「そうか、そうしてか」
「そこで生きられて下されることになります」
「わかった」
秀頼は一言で答えた。
「ではな」
「はい、その様に」
「余は思えばな」
ここでこうも言った秀頼だった。
「天下のことを知らなかった」
「そう言われますか」
「長きに渡って城から出なかった」
大坂の城、そこからだ。
「それで世も知らなかった、それではだ」
「天下人としてですか」
「至らぬという他ない、天下人であられるのは」
その者はというと。
「大御所殿であったのだ」
「そう言われますか」
「最初からな、だからな」
「天下はですか」
「最初から余は天下人ではなかった」
茶々が言っていた様にというのだ。
「そのうえで敗れた、ならばな」
「最早ですか」
「天下は望まぬ」
船の中でだ、秀頼はこのことを幸村に言った。
「二度とな」
「そして薩摩で」
「静かに暮らそう」
「そうされますか」
「もう余は死んだ」
そういうことになっているからだというのだ。
「ならばな」
「それでは」
「薩摩まで宜しくな、それでじゃな」
「はい、薩摩に入られても」
「そなた達がおるか」
「そこでもお供致します」
幸村は秀頼に畏まって述べた。
「その様に。主馬殿もおられますし」
「国松がおってだな」
「そしてやがて明石殿も来られましょう」
「あの者も生きておるか」
「星は落ちておりませぬ」
明石の星、それはというのだ。
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