プロローグ 心の魔物
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滅したが、彼が望んだのはこんなことじゃない。こんなことなんかじゃ、ない。
平和を。愛する国に平和を。そう、彼は心から思っていた。だからこそ、力を望んだ。愛するものを、国を、守る力を。力があれば、大切なものが傷付くさまを見ないで済むからと。
――コンナコトジャナカッタ。
絶望に染まる召喚師の頬を、涙が伝った。赤い、紅い、赫(あか)い。血の色をした、絶望の涙が。暗い、昏(くら)い、冥(くら)い、原初の無よりもなお深い色の絶望が、彼の胸の内を吹き荒れる。
「ア……アア……ァァァアアアアアアアアアア!」
壊れた機械のような声とともに、彼の世界は崩壊した。
「ァ……ァぁ……ァぁァぁァぁァぁァぁァ…………」
その身体が、闇色の光とともに、変化していく。
「ァ……ぁ……」
背は、こぶのように盛り上がり、体中から毛を生やしたそれは、もはや人間ではなかった。
「……ァ……」
幽鬼のようにのっそりと動き出したそれは、魔物そのものだった。
その瞳に、意思は無い。理性も無い、何も無い。人間らしさなんてたった一欠片も無い。
その虚ろな姿は、大召喚師と呼ばれた男ののなれの果て……。
――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。
王も貴族も召喚師も。なんびとたりとも例外は無い。
ひとたび心が闇に落ちれば、一瞬にして、魔の手は伸びる。
そして魔物となった者は、己の死以外ではその状態を解除できない。
これまでもそんな悲劇はたくさんあった。魔物となった大切な人を、自ら手に掛ける人たちの物語が。
悲劇でしかない、ただ悲劇でしかない、この世界の絶対法則。それを端的に人はこう言い表す。
いわく、
――人は、心を闇に食われたら、魔物になる――。
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