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気まぐれ短編集
かなしい奇跡
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*夢で見た、何かの話の一場面

「お願い、助けて!」
 何に、助けを呼んだのだろう。
 助けを呼んだって、誰かが来てくれるというわけでもないのに。
 少女は今、積み上がった薪の上にいた。その上で木の十字架に身体を縛られて、その下では炎がごうごうと燃えていた。彼女の隣には彼女の家族が、大切な人たちがいた。彼らは皆、虚ろな瞳で己に迫る炎を見ていた。
 死ぬんだ、叶わないんだ、敵(かな)いっこない。
 どの瞳にも、一様に浮かんだのは諦め。彼らは生きることを諦めた。
 しかし少女は違った。彼女はそんな状況にあってさえ、諦めることをしなかった。ひたすらに生き続けようと、そのために動いた。彼女の辞書に、諦めるという言葉は無かった。彼女は不屈だ。どんな状況にあってさえ、決してくじけることはしない。それが彼女の強さだった。
 今だって。
「助けて!」
 誰に、助けを呼んだのだろう。
 何に、助けを呼んだのだろう。
 火焔の中、縛られて。彼女が動かせるのは口しかなかった。
 そんなもの動かして、一体何になるというのか。
 周囲には誰もいない。もう、死の運命は動き始めたのに。
 変えられるわけがなく、変えてくれる人もいないのに。
 熱い炎。身体を舐める。それでも悲鳴を呑み込んで、少女は三度(みたび)叫んだ。
「助けて、誰か!」
――そう、全ては生き残るために。
 誰も助けてくれるわけがないのに。
 それでも、それでも少女は決して諦めなかった。
 その瞬間、足元の炎は突如として消え、彼女を縛る荒縄は見えない炎で燃え上がって落ちた。

 奇跡、というものがある。それは起こるべくして起こるもの。
 奇跡なんて、普通は誰も信じない。それは文字通り神頼みになるからで、神々は人間を積極的に助けようとはしない。
 そもそも。
 最初から奇跡を当てにする人間なんか、神々は決して助けようとはしない。彼らが助けるのは、奇跡を信じず、望まず、それでいて自分の力ではどうしようもない逆境の中にいる人たちだ。それでさえ全てを助けるわけでもなく、結局は神の気まぐれである。
 しかし、奇跡は起こるのだ、確実に。たとえそれがどんなにわずかな確率でも、決してその確率はゼロではない。
 少女が窮地に陥ったとき、翼で羽ばたく音がした。
 それは、奇跡に他ならなかった。

「――――え?」
 がくん、と下がった視界。少女は目をまん丸にして、突如現れた漆黒の「それ」を見た。
 「それ」は人間ではなかった。否、人間の姿こそしてはいるものの、人間ではあり得なかった。
 漆黒の髪、漆黒の瞳。少し長めの髪はうなじのところで白い紐を使って一つに括り、そのまま背中に流している。
 漆黒のロングコート、漆黒のジャケット、漆黒のズボン。手には漆黒の手袋をはめ、足には
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