赤い初恋
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明るい明るい朝の光。私はそれを顔に受けて目を覚まし、うーんと一つ伸びをした。
窓を開ければ穏やかな春の風が部屋に入り込む。
深呼吸したくなるような、清々しい春の朝だ。
そしてふと窓辺に目をやると、そこにはカレンダーが掛かっているのが見えた。そこに書かれている月は三月。私はふっと溜め息を漏らした。
「三月、か……」
三月、それは別れの季節。あと数日で私は高校を卒業し、大学生になるのだ。仲の良かったみんなと過ごす日々はあと、一か月もない。
思えば長いようで短かった三年間だったなぁと思いを馳せながらも、私はふと思い立った。
「そうだ、どうせいなくなるんだ、久しぶりに整理でもしようか」
高校を卒業する前に、物置の中を眺めて思い出に浸ろう。きっといらないものだってあるはずだ。立つ鳥跡を濁さず、別れるならばけじめをつけなければ。
思い立ったが吉日とばかりに私は立ち上がると、とりあえずの身づくろいを済ませ、そのままリビングへ歩いていった。
◆
リビングで朝食を食べ、私は物置へと向かう。気合を入れて物置の扉を開け放つと、少しかび臭い匂いがした。物置の暗闇に目を慣らすために中をじっと見つめると、私の視界にあるものが目に入った。
赤くて可愛らしいランドセル。
それを見た途端、怒涛のようにこれまでの日々が私の脳裏によみがえってきた。
小学校の時、大好きだった父さんに買ってもらったランドセル。赤い赤い可愛らしいランドセルをデパートで見て、それに一目ぼれして買ってもらったのをよく覚えている。あの日から私の学校生活は始まった。
一年生の入学式。ガチガチに緊張して泣き出したのを覚えている。新しく入ったばかりの先生が担任教師で、困った顔をしてうろたえていた。やがてパニックはおさまったけれど、恥ずかしさで真っ赤になってみんなに笑われた。私のスタート地点はそんなところからだ。
それから六年間、ずっとランドセルを背負って学校に行った。赤い小さなランドセル。それは小さなものだけれど確かに、その中にはたくさんの思い出が詰まっていた。嬉しい時も悲しい時も、初恋をした日も失恋した日も、毎日この赤を背負って学校に行った。
記憶にあるのならばその中には、私の初恋相手からの最後の贈り物、茶色いクマのぬいぐるみが入っているはずなのだ。
思い出は一瞬でよみがえった。これまでずっと忘れていたけれど、この赤を見たらその瞬間、走馬灯のように次々と流れた記憶。
これから新しい生活が始まる。大学生になったのならば小学時代のことなんて顧みる日は来なくなるのかもしれない。だから今、物置を整理してこれを見つけられたのは幸運だった。
様々な思いを胸に抱き、私は思い出のランドセルへ近づいた。恐る恐るその蓋を開ける。震える指先。今も
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