届かなかった手
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震は起こらなくなるはずである。
確か琴里の説明では、精霊が異空間からこちらの世界に移動する際の余波が空間震となるという話だった。そして、十香が自分の意思とは関係なく不定期にこちらの世界に引っ張られてしまうというのなら、最初からずっとこちらに留まっていればよいのだ。
「で、でも、あれだぞ。私は知らないことが多すぎるぞ?」
「そんなもん、俺が全部教えてやる!」
十香が発してきた言葉に、即座に返す。
「寝床や、食べるものだって必要になる」
「それも・・・どうにかするッ!」
「予想外の事態が起こるかもしれない」
「んなもん起きたら考えろッ!」
十香は少しの間黙り込んでから、小さく唇を開いてきた。
「・・・本当に、私は生きていてもいいのか?」
「ああ!」
「この世界にいてもいいのか?」
「そうだ!」
「・・・そんなことを言ってくれるのは、きっとシドーだけだぞ。崇宮暁夜やAST、他の人間達だって、こんな危険な存在が、自分達の生活空間にいたら嫌に決まっている」
「知ったことかそんなもん・・・ッ!!ASTだぁ!?暁夜だぁ!? 他の人間だぁ!?そいつらが十香!おまえを否定するってんなら!それを超えるくらい俺が!おまえを肯定するッ!」
そう叫んで。士道は、十香に向かってバッと手を伸ばした。
十香の肩が、小さく震える。
「握れ!今は―――それだけでいい・・・ッ!」
十香は顔を俯かせ、数瞬の間思案するように沈黙した後、ゆっくりと顔を上げ、そろそろと手を伸ばしてきた。
「シドー―――」
士道と十香の手と手が触れ合おうとした瞬間。
「―――――」
士道は、ぴくりと指先を動かした。何故か分からないけれど―――途方もない寒気がしたのだ。ざらざらの舌で全身を舐められるような、嫌な感触。
「十香!」
士道の喉は、意識してもいないのにその名を呼んでいた。そして十香が答えるより早く。
「・・・っ」
士道は、両手で思い切り十香を突き飛ばしに駆け出すが、それよりも早く十香の身体が大きく痙攣し、前のめりに倒れ込む。 まるで、背中に強い衝撃を受けたみたいに。そしてその背中からはおびただしい程の赤い液体が漏れ出ていた。それが遅れて血だ、と気づいた士道は咄嗟に動くことが出来ず、思考がフリーズした。
「・・・あぇ?」
目の前で十香が死んだ。士道は自分の服に飛んできた血を気にすることもなく、ズサっと尻餅をついた。
先程まで、楽しくデートをしていた十香が死んだ。先程まで、あんなに美味しそうに黄な粉パンを頬張っていた十香が死んだ。先程まで、あんなに笑顔を浮かべていた十香が死んだ。死ん
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