届かなかった手
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が顔を背けた。表情を無理矢理変えるように、手で顔をごしごしとやってから、視線を戻してくる。
「―――でも本当に、今日はそれくらい、有意義な1日だった。世界がこんなに優しいだなんて、こんなに楽しいだなんて、こんなに綺麗だなんて………思いもしなかった」
「そう、か―――」
士道は口元を綻ばせて息を吐いた。
だけれど十香は、そんな士道に反するように、眉を八の字に歪めて苦笑を浮かべた。
「あいつら―――ASTとやらの考えも、少しだけ分かったしな」
「え・・・?」
士道が怪訝そうに眉根を寄せると、十香が少し悲しそうな顔を作った。士道が嫌いな鬱々とした表情とは少しだけ違う―――でも、見ているだけで胸が締め付けられてしまいそうな、悲壮感の漂う顔だった。
私は………いつも現界する度に、こんなにも素晴らしいものを壊していたんだな」
「―――――っ」
士道は、息を詰まらせた。
「で、でも、それはおまえの意思とは関係ないんだろ………ッ!?」
「だがこの世界の住人達にしてみれば、破壊という結果は変わらない。ASTが・・・崇宮暁夜が私を殺そうとする道理が、ようやく・・・知れた」
士道は、すぐに言葉を発せなかった。十香の悲痛な面持ちに胸が引き絞られ、上手く呼吸が出来なくなる。
「シドー。やはり私は――いない方がいいな」
そう言って――十香が笑う。今日の昼間に覗かせた無邪気な笑みではない。まるで自分の死期を悟った病人のような――弱々しく、痛々しい笑顔だった。
ごくりと、唾液を飲み込む士道。いつの間にか喉はカラカラに渇いていた。張り付いた喉に水分が染みていく軽い痛みを感じながら、どうにか口を開く。
「そんなこと・・・ない・・・ッ」
士道は声に力を込めるために、ぐっと拳を握った。
「だって・・・今日は空間震が起きてねえじゃねえか!きっといつもと何か違いがあるんだ・・・ッ!それさえ突き止めれば・・・!」
しかし十香は、ゆっくりと首を振った。
「たとえその方法が確立したとしても、不定期に存在がこちらに固着するのは止められない。現界の数は減らないだろう」
「じゃあ・・・ッ!もう向こうに帰らなければいいだろうが!」
士道が叫ぶと、十香は顔を上げて目を見開いた。まるで、そんな考えを全く持っていなかったというように。
「そんなことが―――可能なはずは・・・」
「試したのか!?一度でも!」
「・・・」
香が、唇を結んで黙り込む。
士道は異様な動悸を抑え込むように胸元を押さえながら、再び喉を唾液で濡らした。咄嗟に叫んだ言葉だったが―――それが可能ならば、空間
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