届かなかった手
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屈託のない笑みを浮かべてくる。
「いいものだな、デェトというのは。実にその、なんだ、楽しい」
「・・・っ」
不意を突かれた。自分からは見えないけれど、きっと頬は真っ赤に染まっている。
「どうした、顔が赤いぞシドー」
「・・・夕日だ」
そう言って士道は、顔を俯かせる。
「そうか?」
すると十香が士道の下に寄り、見上げるようにして顔を覗き込んできた。
「ぃ―――ッ」
「やはり赤いではないか。何かの疾患か?」
吐息が触れるくらいの距離で、十香が言う。
「や・・・ち、違う、から・・・」
視線を逸らしながらも―――士道の頭の中には、デェト、という言葉が渦巻いていた。
漫画や映画の知識ではあるけれど。たぶん、恋人達がデートの終盤でこんな素敵な場所を訪れたなら、やっぱり―――
自然と士道の目は、十香の柔らかそうな唇に向いていた。
「ぬ?」
「―――――ッ!」
別に十香は何も言っていないのだが、自分の邪な思考が見透かされた気がして、再び目を逸らしながら身体を離す。
「何だ、忙しい奴だな」
「う、うるせ・・・」
士道は額に滲んだ汗を袖で拭いながら、ちらと十香の顔を一瞥した。10日前、そして昨日、十香の顔に浮かんでいた鬱々とした表情は、随分と薄れていた。
士道は、鼻から細く息を吐き、一歩足を引いて十香に向き直る。
「―――どうだ?おまえを殺そうとする奴なんていなかっただろ?」
「・・・ん、皆優しかった。正直に言えば、まだ信じられないくらいに」
「あ・・・?」
士道が首を捻ると、十香は自嘲気味に苦笑した。
「あんなにも多くの人間が、私を拒絶しないなんて。私を否定しないなんて。―――あのメカメカ団・・・ええと、何といったか。エイ・・・?」
「ASTのことか?」
「そう、それだ。街の人間全てが奴らの手の者で、私を欺こうとしていたと言われた方が真実味がある」
「おいおい………」
流石に発想が飛躍し過ぎていたが・・・士道はそれを笑えなかった。だって十香にとっては、それが普通だったのだ。否定されるのが、され続けるのが、普通。なんて―――悲しい。
「・・・それじゃあ、俺もASTの手元ってことになるのか?」
士道がそう言うと、十香はぶんぶんと首を振った。
「いや、シドーはあれだ。きっと親兄弟を人質に取られて脅されているのだ」
「な、何だその役柄・・・」
「・・・おまえが敵とか、そんなのは考えさせるな」
「え?」
「何でもない」
士道が問い返すと、今度は十香
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