巻ノ百四十四 脱出その二
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「死んだことになっておるがな」
「実なですな」
「生きておるからそのことは安心せよとな」
「どうも十年共におられて」
「それなりに情が出来ておるな」
「その様でしたな」
「それだけに死んだと思うと悲しむ」
夫であった秀頼がというのだ。
「だからな」
「その様にですな」
「千には話してな」
「安心して頂きますか」
「その様にする、ではな」
「はい、山里曲輪を攻めていき」
「糒蔵にも迫れ、もうそろそろじゃ」
幸村の動きを予想しつつだ、家康は言っていった。
「櫓から火が出て火薬にも火が点きな」
「爆発が起こりですな」
「右大臣殿は死んだことになる、そこで茶々殿も死ぬ」
「茶々殿もですか」
「もう逃げぬわ」
茶々についてはだ、家康はこう見ていた。
「二度の落城があった、その都度父君と母君を失くしてきたのじゃ」
「浅井殿、そしてお市殿を」
「義父の柴田権六殿もな」
三人共家康は知っていて実際に顔を見会わせ親しく話したこともある、家康は三人の誰にも悪い印象は抱いていなかったし今もそれは変わらない。
その馴染みの者達であったからこそだ、家康は彼等のことも思いつつ茶々の身の上を考えて話した。
「親達を失った、ご自身には落城の因縁めいたものがあるかとな」
「思われて」
「それでじゃ」
「もうここで、ですか」
「その様なことが続かぬ様にな」
「ご自身の死を以てですか」
「終わらせよう」
「だからですか」
「茶々殿はここで死ぬ」
家康は大久保に語った。
「だから常高院殿にもじゃ」
「形見の品を授けられたのですな」
「そうじゃ、だからな」
「茶々殿はここで亡くなられますか」
「そうなる、菩提はしかと弔ってもらう」
常高院、そしてお江にというのだ。
「思えば悲しい方であったわ」
「ですな、常に落城に付きまとわれたのですから」
「それも終わりじゃ」
大坂城の落城でというのだ、天守閣はいよいよ火に包まれ紅蓮の柱となろうとしていた。そして山里曲輪もだった。
幕府の兵が殆ど抑え糒蔵にも兵が迫りその中で。
蔵の中にだ、遂に幸村が来た。大助が最初に幸村を見て彼に言った。
「父上、お待ちしておりました」
「うむ、待たせた」
「それではこれより」
「時間はない、急ぐぞ」
「右大臣様をこれより」
「抜け穴がある、そこを通ってな」
そのうえでというのだ。
「木下家の陣地まで出てじゃ」
「そこからですな」
「すぐにじゃ、船を出してもらい」
「海に出て」
「そこから肥後に向かうぞ」
「わかり申した」
「既に国松様は出ておられる」
幸村は秀頼の子である彼のことも話した。
「船にな」
「主馬殿と共に出られて」
「そうじゃ」
まさにというのだった。
「
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