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SoA 大戦編 月影に吼える
プロローグ 獣の子
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  ◆

「眠ったね」
「眠ったみたいね」
 血と汚物にまみれる床の上、横たわる我が子を見て二人は安堵の息をつく。
「護送車は手配した。後はこの子を送るだけだ」
「私、ようやくこの生活からおさらばできるのね」
 夫婦には子に対する愛がない。当然だ。二人はこれまでずっと、「獣の子を産んだ」として世間から白い目で見られ、我が子のせいで様々な苦汁を舐めさせられたのだから。二人は我が子との別れを悲しまない。いっそのこと、別れられて清々しているのだろう。
「時間です」
 声がする。
手袋をした看守が出てきて檻を開け、傷だらけの少年の身体を運び出した。看守は檻のそばにたたずむ夫婦を見ると首を傾げた。
「お別れは、しなくてもよろしいのですか」
「したくないわ。それよりもさっさと私の目の前からその子を消して頂戴。穢らわしいわ、見ていたくないの」
「……畏まりました」
 看守は少年を抱いて地下を出る。そのしばらく後に、夫婦も続いて外に出た。外には頑丈な檻の乗っかった物々しい護送車がある。
 これから少年は捨てられる。ついに両親からも見捨てられる。
「何も生まれたくて獣に生まれたわけじゃあないでしょうに」
 看守はその目に憐れみを浮かべ、
「ならばせめて、神の加護のあらんことを」
 少年を護送車に横たえると、その首に何かを掛けた。それは金色のメダル。幸運の神フォルトゥーンの証したる福寿草の描かれた、純金のメダル。昔、看守の先祖がフォルトゥーンから直接もらったという秘宝のメダル。それは看守にとってとても大切なものだったけれど、彼が哀れな少年に与えられるのはこれくらいしかなかったから。
「さらばです……ジオ様、ジオファーダ様」
 ついぞ親からは呼ばれたことのなかったその名を呼び、看守は護送車の扉を閉めた。
「出発進行!」
 小さな獣の少年を乗せて、護送車はいなくなる。
 看守はその光景を、ずっと見つめていた。


「終わったか」
「終わったわね」
「これで平穏な毎日が訪れるんだな」
「これで平穏な毎日が訪れるのよ」
「俺たちは解放されたのか?」
「私たちは解放されたのよ!」
 ヴェリンとリルーサ。夫婦たる二人は互いに顔を見合わせて、嬉しそうに笑った。
 ジオファーダが、忌々しい獣が、厄介な、王家の面汚しが、ついに。
「「いなくなった!」」


 しかしこのことはすぐに、国王リュブドにばれることになる。事態を重く見たリュブドは二人から位を剥奪して都から追放し、皇太子をジオファーダとした。リュブドはジオファーダを捜そうとしたが、夫婦は頑として口を割らず、また、普通に捜しても簡単には見つからなかった。
 結局、少年が見つかったのはそれから五年後、ジオファーダ十歳の時だった。
 それまで彼はずっと、「獣」で
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