プロローグ 獣の子
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。彼らは総合的に「獣人」と呼ばれ、その中でも「猫人」や「狼人」、「鳥人」や「蛇人」、「水人」など様々な種族に分かれる。彼らは両親が普通の人間でも生まれることがあり、この国の中ではありふれた存在である。
しかし「その子」は違った。最初から獣の姿で生まれたその子はひたすらに暴れて人を傷付け、暴れ疲れると人間の姿に戻って眠る。その子は己の力を制御できずに人を傷付けるため、否応なく檻に囚われなければならなくなった。その子は他人だけでなく自分すらも傷付け、手負いの獣のようにただひたすらに暴れ続けた。その凶暴性は他の獣人たちに見られるものでではなかった。
その子はとにかく異常だった。ある日その子は力任せに檻を破壊して脱出し、檻の看守を殺してしまったことすらあるのだ。そしてその日から、皇太子と皇太子妃であるヴェリンとリルーサは、暗い確信を抱き始める。
――いずれこの子を何とかしなければ、自分たちが殺される!
暗い気持ちは溜まりに溜まり、小さなことで爆発するような状況にあった。
一触即発。
その爆発が単に、今日だったというだけの話だ。
◆
――痛い。
人間に戻った少年は、涙を流していた。その身体には何一つ纏っておらず、彼の両の拳からは血が流れ出して辺りを赤く染めている。獣であった時にあちこち所構わず殴りつけた拳の皮は裂けて骨が露出し、しかもその骨すらバキバキに折れていて、それはもう手の形をしていなかった。
少年の身体を限りない疲労感が襲うが、痛みに意識は覚醒し、彼は眠ることすら許されない。
苦しみに悶える少年の口から声が溢れた。それは苦痛の咆哮(ほうこう)。
オオオォォォォ……オオォ……ォ……
弱々しく、痛々しく。大小便も垂れ流しの床の上、己の血と汚物にまみれながら。
そんな惨めで哀れな姿が王子であるとは、誰も信じられないだろう。しかし現実はこれなのだ。
ぐったりとした彼の前、無表情の看守がやってきて檻の中に何かを投げ、逃げるようにして去った。彼に「エサ」として与えられたのは血の滴る生肉。それはまさに、動物にするような仕打ち。彼はそれを犬みたいに口だけで食べる。地に這いずりながらも食べる。彼の、肉を持つべき手は既に手の形をしていないし、彼はこの方法以外の食べ方を知らなかった。だから彼は犬食いで食べる。ガツガツと、咀嚼する音だけが檻の中響いた。
人間として扱われず、獣のようにして生きる。それが、「獣」として生まれた彼の宿命であった。
彼は「エサ」に毒が含まれているのを食べ始めてから知ったが、構わず全て食べ切った。
――もう、しんでもいいや。
少年は全てを諦めていた。
かくして彼は眠りに落ちる。毒によって、強制的に。
このままめざめなければいいのにと、ぼんやりとした意識の中、彼は思った。
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