金色の秋
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死体。息をしないあいつの身体。
そうさ、あいつは死んだんだ。私はそう思っていた。
しかし。
あいつの胸が、膨らんで、
「……銀色」
私をそう呼ぶただ一人の声が、
死んだと思っていたあいつの声が、
したから。
「金色!」
疲れ切った身体を叱咤して、私は起き上がって彼の身体を両の手に抱く。
その胸からは血が絶えず流れ続けていたが、その流れももう細い。
ああ、死ぬんだなと私は思った。
最初はただ命を助けられただけの関係だったのに。私が誘い、あいつが乗った。そうして絆を深めていった。
赤の他人さ、戦場で出逢った赤の他人に過ぎないのに。彼の死が間近に迫っていると知って、私の心の中は悲しみでいっぱいだった。
「……銀色」
私があいつを「金色」と呼んだら。ならば私の銀の髪の毛から銀色と呼ぶって、屈託なく笑ったあの笑顔。
あいつは私をその名で呼んだ。そして途切れ途切れの息の中、私の知らなかった感情を、戦場に生きる私には無用だと強いて遠ざけていた感情を、短い言葉に乗せて私に投げてきた。
そうさ、この感情は互いを激しく縛るから。口にしてはいけないものなのに。
あいつは死ぬから。今しか言えないから。
その言葉を、言った。
「……好きだよ」
ずるいよ、金色。死に際に、最高に格好いいこと言いやがって。
それはたった四音の短い言葉なのに、そう告白された瞬間胸がどうしようもなく熱くなった。そして気がつけば私は涙を流しながらも、震え声でつぶやいていた。
「……私だって好きだったさ」
あえて隠していたこの感情。彼に命救われたときから抱いていた、熱い思い。
私はあいつが好きなんだ! だからこそ……だからこそ! 死んでほしくはなかったのに……!
涙があいつの血の気を失った顔に、ひとつ、ふたつ滴り落ちた。
「馬鹿がッ……! お前が誰かを守って死なないようにって……言ったじゃないかこの金メッキ頭がッ!」
「ご……めん……な」
答える声はか細くて。漏れる息は虫の息で。
それでもあいつは満面の笑みを浮かべて、その両手で私を抱き締めた。
「……もっと一緒に……いたかった……」
その言葉を最後に、あいつの手から力が抜けた。
その顔はとても優しげに微笑んでいて。
私はあいつの口の辺りに手をやってみたが、もう息は感じられなかった。
私はあいつの額に軽く口づけをして、もう一度、天を仰いでつぶやいた。
「……馬鹿が……」
こうしてあいつは逝ってしまった。
秋の冷たい風が、肌を撫でる。
私の初めての恋はこうして終わって。
私の初めて愛した人は、こうして死んでいった。
◆
私は、秋が嫌いだ。
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