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歌集「冬寂月」
四十八

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 見るもなき

  螢も知らぬ

    春日部の

 野辺にそぼ降る

      露の夕暮れ



 故郷で見たあの蛍…あの様な蛍を、ここで見ることはないのだな…。
 今あるこの地は、きっと蛍など知らぬし、故郷の蛍も…この地を知らない…。

 野原に幽かに降る霧雨…淡い朱を雲間から落とす夕暮れ…。

 寂しさや虚しさが寄り添う様な風景に…あの人との思い出が零れる…。



 夢に見し

  逢ふもなきにし

   人影に

 覚めてや痛む

     こゝろ侘びしき


 ふと…あの人の夢を見た…。

 楽しそうに…私と話す…。

 ただの夢…覚めれば何も残らぬ…ただの夢…。

 なのに…心は痛む…。

 なぜ今更あの人の夢を見たのだろう…。
 ずっと夢でさえ会えなかったあの人…もう会わないと決めたあの人…。

 心が揺らぐ…。


 こんな夢を見たら、会いたくなるに…決まってるのに…。

 なぜ今更…夢を見る…。




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