暁 〜小説投稿サイト〜
気まぐれ短編集
鬼の娘 
[2/3]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
るほどパズルの腕を上げていく少女。完成にかかる時間も短くなり、日に要求するパズルの量も増えていく。なかなか広かったその部屋は。いつしかパズルばかりで埋まって、かなり狭くなっていました。このままでは、いずれ彼女も。パズルの山に埋もれてしまいます。
 だからある日、ある人が言いました。

「これ以上鬼を匿うのは面倒だ。いっそのこと、そのまま埋もれさせてしまえ」

 これまで定期的に与えていた飲食物も。与えるのを止めてしまえと。
 彼女を殺してしまえと、その人は言うのです。
「そもそも鬼なんか匿う意味があるのか? 最初から殺してしまえばよかったんだよ!」
 その会話は。偶然彼女の部屋に通じる天窓の近くで行われていたものなので。
 しかも何の偶然か。天窓が少し開いていたので。
 彼女は聞いてしまいました。そして感じたのです。どうして、と。
 初めて感じた怒りと、抵抗したい気持ちが。彼女の内部を突き動かします。
 「鬼」と呼ばれた彼女はこれまで。触れるだけで人を殺してしまう自分の力を、うまく制御することができませんでしたが。今この時、怒りを感じて。ぐちゃぐちゃになったパズルを完成させるように、彼女の中で、何かがピタッとはまりました。
 そして彼女は吠えました。半ば開いた、天窓に向かって。
 叫べば。驚いたような声がして。上から食べ物と飲み物の入ったバスケットが、下ろされてきました。
 しかし。彼女はそれに見向きもせず。バスケットを下ろしてきた縄にむしゃぶりついて、一瞬で上へと上りました。上り切りました。
 久しぶりに見た、「部屋」の外の光。人々の驚いたような声が、遠く聞こえます。
 でも、人々は彼女を嘲笑っていました。獣みたいで、醜い奴と。
 彼女はだから、その人を殺しました。直接触れないでも。彼女の中ではまったパズルが。人の鼓動をそれぞれ聞きわけて、空気を振動させて一瞬でその人の鼓動を止めます。
 人の鼓動を止める力。それが彼女が「鬼」たる所以だったのです。
 胸を掴んで倒れた人間。それを見て、恐慌に陥る人々。しかし一歳の容赦はせず。「鬼」の少女は次々に人の心臓を止めて行きました。止めれば止めるほど慣れていって。いつしかパズルの腕を次々と上達させていったように、彼女は人の心臓を止める腕を、上達させていったのでした。彼女は一度に何百人、何千人もの心臓を、止められるほどになったのです。
 そもそもあまり大きな世界でもなかったのです。こうしてその世界の人間は、死に絶えていきました。自分たちが閉じ込めた、たった一人の少女の手によって。
 彼女は見つけた人間を、例外なく殺しました。老若男女、一切問わず。彼女には人間らしい心がありません。誰も彼女に愛を教えてくれなかったから。だから彼女は、自分の行動を、まったくひどいと思いません。

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ