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気まぐれ短編集
鬼の娘 
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 昔々。鬼と呼ばれた女の子がいました。彼女の本名は誰も知りません。
 それは。私たちが生まれるはるか昔のこと――。

  ◆

 その女の子は。鬼と呼ばれていました。なぜなら、彼女は生まれながらにして、触れただけで人を殺してしまう、恐ろしい力をもっていたからです。
 彼女にも元は名前があったけれど。人は彼女を鬼と呼んで忌み嫌い、誰も彼女の名前を覚える者はおりませんでした。そうして「鬼」は、一人ぼっちになりました。
 けれど。「鬼」は簡単に人を殺せます。だから、そのまま野放しにしてはならないと、ある人は言いました。
――だから、地下の部屋に彼女を閉じ込めました。
 上に開いた天窓だけが、部屋と外との唯一の出入り口。人は「鬼」の子を隔離したのです。
 彼女に自由はありませんでした。しかし、代わりになんでも与えられました。本もぬいぐるみも。お茶もお菓子も。服も香水も。彼女が誰にも触れないことを条件に。逃げ出さないことを条件に。彼女の生活は保障されました。けれど、彼女はそれらには一切興味を示しませんでした。
 それを見たある人が、ある日、彼女に言いました。

「君、パズルは好きかい?」

 「鬼」と呼ばれ、隔離されてきたがゆえに、彼女はパズルが何なのか知りません。けれど、わからないなりにうなずいて、それを彼女が届かないほど高い部屋の天窓から、中に入れてもらいました。
 その人は何も説明をしてくれませんでしたが。彼女は自分でやり方を見つけ、パズルの面白さにとらわれていきました。
 彼女の小さな手は。パズルのパーツのひとつひとつを手にとって、その絵柄を完成させていきます。次はどうしようこうしよう。そう考えている間は幸せで。閉められた部屋の閉塞感も、誰も話し相手のいない孤独感も。その間だけは紛れました。彼女はパズルを愛するようになりました。彼女は器用で頭が良かったのです。渡されたパズルは、少し時間が経てば、たちまち完成してしまいます。するとまた襲い来る孤独と寂しさに。彼女は天窓に向かって声をあげます。
 「鬼」と呼ばれた彼女は。人の言葉を喋れません。天窓から顔をのぞかせた人間に、パズルの箱を持って唸ります。するとその人は彼女の意をくんで。今度はたくさんのパズルの箱を、天窓から縄を垂らしてつないだバスケットの中に入れて、彼女に送り届けました。「鬼」と呼ばれた少女は嬉しくなって、にっこりと笑いました。

 以降、彼女のパズルの日々は始まります。彼女は毎日毎日、たくさんのパズルを要求しました。すると人々は毎日毎日。彼女に沢山のパズルをあげました。
 一般的な「パズル」と呼ばれる、絵柄完成のものはもちろん。木でつくられた立体的なパズルや、自由に形を作るタングラムのようなものまで。彼女の周りはパズルであふれました。
 しかし。やればや
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