Fireworks
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人分の器を持って、うんとうなずいた。
「だから、連れてって」
海辺に座ってかき氷を食べながら、私とみっくんは打ち上げられる花火を今か今かと待ち構えていた。
ザザァッ、ザザァッ……と寄せては返す波の音が、不思議と耳に快い。
その静寂を引き裂いて、
打ちあがる花火よ。
ドォォオオオオオオン。
はじめに空にくれないの花が咲いて。
ドォォォオオオオオン。太鼓みたいに響く、重く深い音。
花火は次から次へと打ちあがる。
ドォォォオオオオオン……ドォォォオオオオオン……ドォォォオオオオオン……。
和音のように重なった重低音。遠雷のような重い響き。
それとともに打ちあがる花火は時に赤、時に青、黄色に緑、極彩色に輝いた。
でもどんなに綺麗に輝いたって、花火はやがては見えなくなって。
完全に消えるその瞬間だけ、何よりも強く鮮やかに輝いて。
嗚呼、私の命みたいだなと、そう思った。
「みっくん、綺麗だねぇ」
「これでいいのか?」
「うん、いいよー。私、この花火が見たかったの」
漆黒の空に浮かび上がる、幾重にも咲いた鮮やかな花たち。夜空を彩る、夏の風物詩。 ――これを、見たかったの。
蝉の声と潮騒の音、そして花火の重低音。
夜空を彩る幻想的な光景。
いずれ私は散るのだとしても、この光景だけは忘れたくない。
死の間際、私はきっと何度でも、この光景を思い出す。
みっくんが優しく私の髪を撫でた。私はみっくんの腕の中にその身をゆだねた。
この幸せな時間が永遠に続けばいいのに。
★
永遠なんて、存在しなかった。
やがてついに花火は終わって、海岸は夜の静けさに包まれる。
ザザァッ……ザザァッ……。
寄せては返す波の音とやたらうるさい蝉の声だけが今、世界にある音のすべてだ。
私もみっくんもしばらくは何も言わなかったけれど。
不意にみっくんが、私を強く抱き寄せたんだ。
「……みっくん?」
……みっくんは、泣いていた。
「お前のことが好きだよ、火花。だから逝かないでくれ、もっと俺の傍にいてくれ……!」
なんだ、そんなことか。きっとあの花火を見て、そんなに感傷的になったんだね。
私は笑ってみっくんを抱きしめた。
「私もみっくんのことが大好き。大丈夫、どこにも行かないよ」
「でも病気が……」
「みっくんらしくなーい。ネガティブやめよ、私は元気!」
笑って私はすっくと立ってみる。
立てた。足がちょっと震えたけれど大丈夫だよ。私、立てるもん!
「……火花」
「帰ろ、かーえろ! 今日は楽しかったよみっくん。だからこれあげる」
私は先ほどの赤い金魚の入ったビニール袋を、みっくんの手に乗せた。
「……
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