ミストラル
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【ミストラル】
――今日も、風が吹く。
「シオン? 早く家に戻りなさい!」
「はぁい、母さん」
母の声に、僕、シオンは歩き出す。
――あの日も、風が吹いていた。
そうさ、ちょうど今日みたいに。
あの日も風が吹いていて。
僕らは変わらず遊んでいたんだ。
風を受けて回る風車を、あの子が面白いと言ったんだ。
だけど、あの子はもういない。
目の前にあるのはあの子の墓で。
どろどろのぐちゃぐちゃの。
人間だったとはとても思えぬ肉塊と化して死んだ、あの子の墓で。
そこには。あの日にあの子と死んだ「僕」も、一緒に眠っているんだ。
そしてまた、風が吹きすぎる。
この地方ではこの季節風のことを、「ミストラル」というらしい。
その響きが好きだ。あの子も、あの気ままな子も「ミストラル」と呼ばれていたんだ。
「シオン?」
「すぐ行くよ、母さん」
考え事なんてしている暇はなさそうだ。
僕は走って家へと向かった。
家は湿ったにおいがした。
悲しいにおいだなと、心のどこかで思った。
◆
「籠を編むんだよ」
母さんが芋の蔓を広げた。
僕は一応男だけれど、華奢で力仕事には向いていない。
でも、手先は器用だから。こうして母さんの手伝いをするんだ。
今日はただの手伝いじゃないけれど。
ビョォォォォォオオオオオオオオオオオ。
どこか悲しげな音を立てて風が吹いた。
その音を聞きながらも母さんは僕に言う。
「風泣きの音は悲しみの歌だよ。ほら、あの子が。『ミストラル』が、泣いている」
その言葉を聞いて、僕は唇を噛んだ。
ミストラル。そう呼ばれ、本名すら忘れられたあの子。
あの子を殺したのは僕なんだ。
話をしようか。
◆
あの日も強い風が吹いていた。
その中を僕とあの子は走って行ったんだ。
村の中の唯一の風車、そこまで一緒に追いかけっこした。
でもね、運動音痴な僕が「ミストラル」に勝てるわけがなかったのさ。
完敗した僕は悔しがって、大人たちには内緒で風車の中を探検しようとあの子に提案した。
あの子は面白がって、その提案を呑んだ。
そして僕らは知っていたから。鍵のかからない裏口を。そこから二人して悪戯っ子のように中に入った。えもいわれぬ背徳感があって、それがまた楽しかった。
あの子が先頭、僕は後ろ。僕らは風車の中にしつらえられた螺旋階段を、真っ暗な中で明かりもなしに登ったんだ。この暗さが怖かったけれどそれでも少し面白くって。冒険者になったつもりで、天辺まで登ってみたんだ。
天辺まで登ってみたら、明かり採りの窓から明かりがもれてうっすらと辺りを照らしている光景が目に入った。ガタンゴ
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