巻ノ百四十三 それぞれの行く先その十二
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「ここはです」
「殿はあと少しで来られます」
「それではです」
「もう少し粘りましょう」
「わかった、父上が来られるまでな」
まさにとだ、大助も応えてだった。
今は十勇士達と共に戦うのだった、だが幕府の兵はあまりにも多く彼等も次第に追い詰められていっていた。
気付けば大坂方は山里曲輪にいるのみとなっていた、そして糒蔵に秀頼達が集まっていた。そこでだった。
秀頼は千を逃がした後でだ、大野に問うた。
「ではこれより余は」
「いえ、あと少しで」
大野はその秀頼に対して畏まって述べた。もう重臣も残っているのは彼と毛利そして治胤だけであった。
「真田殿が来られます」
「だからか」
「はい、あと少しだけ」
「待てばよいか」
「そうされて下さい」
こう言うのだった。
「お願い致します」
「わかった、ではな」
「実はこの場所は」
糒蔵、ここはというのだ。
「すぐ近くに抜け道がありまして」
「そうであったか」
「はい、これはそれがしと木下殿だけが知っていて右大臣様にも何時かお話するつもりでしたが」
「それが今になったか」
「はい、真田殿は木下殿の陣に行っておられるのでしょう」
それでというのだ。
「あと少しで、です」
「源次郎が来るか」
「そうしますので」
だからだというのだ。
「腹を切られぬ様」
「そうすべきか」
「どうか落ち延びて下され」
「そこまで言うならな、しかし」
秀頼は外の音を聞いた、幕府の兵達はもうすぐそこまで来ており戦の音と声が絶えない、まさにこの糒蔵の中にもだ。
幕府の兵が来かねなかった、それで秀頼も言うのだった。隣にいる茶々は疲れきりもう言葉を出せないでいる。
「間に合えばよいが」
「それもご安心を」
「そうじゃな、源次郎ならばな」
「もうすぐ来られます」
落城を間近に迎えた中で秀頼に言うのだった、今秀頼達は最期の時を迎えるのかそうはならないかという瀬戸際の中にあった。
だが木下家の陣がある備中島でだ、木下延俊北政所の兄である彼がある者を見送って呟いていた。
「お頼み申す」
間違いなく何かが動こうとしていた、今まさに全てが終わろうとしているその中で。
巻ノ百四十三 完
2018・2・15
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