第54話
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滅。恋が無意識に背けていた言葉を使われ、顔がゆがむ。
今にも泣きだしそうな表情は、まるで迷子の童子だ。隊の長として余りにも無様。
その表情は、恋を誰よりも認めていると自負している、華雄の心をざわつかせた。
「今のお前の判断を、倒れ伏す皆は喜ぶのか?」
「!」
喜ぶはずがない。恋達をその場に縛っているのが自分たちと解れば、自害してでも撤退を促すだろう。
それは――自分が同じ立場でも同様だ。
恋が華雄に目を向けると、右手から血が滴っているのが見えた。
殴った時に傷つけたのではない。得物を握る力が入りすぎて皮が破れたのだ。
大炎を見捨てる事は、言うまでもなく華雄にとっても不本意。
彼女の隊からも、多くの者が大炎に合流している。中には、恋達よりも長い付き合いの古株もいるだろう。
恋の脳裏に、反董卓連合戦での華雄の姿が蘇る。
圧倒的劣勢の中において、常に最善を選択、奮戦し続けた。
味方に多大な犠牲を出しながらも、勝利を諦めず戦斧を振り。
水関が破られると見るや、味方を鼓舞しながら虎牢関に下がった。
遠目に眺めて思ったものだ、あの姿勢こそ大炎の長が目指すべき将の姿だと。
「皆、撤退――」
「前進です!」
意を決した恋の言葉を遮ったのは音々音だ。彼女専属の護衛隊を引き連れて中央からやってきた。
音々音も礫石に巻き込まれたはずだが、彼女の護衛隊は大炎随一の防御力を持つ。
恋の矛さえ数撃防ぎきれる彼らは、数人の戦闘不能者を出しながらも軍師を守り抜いた。
「活路は後ろではなく、前にあるです! 音々を信じてくだされ、呂布殿」
撤退を促した華雄の視線を感じ、音々音はピクリと震える。
誤解だ。眼光の鋭さはともかく、華雄に彼女の意見を反対する意思はない。
反董卓連合戦にて、その戦術眼の高さは痛感している。そんな彼女が進言したのだ、勝算はあるのだろう。
それに、最終的な判断権は長にある。
「即決しろ、恋」
「……前進」
「呂布殿ぉ!」
「く、どうなっても知らんぞ!」
「投石を免れた大炎が突っ込んできます!」
「馬鹿な……正気か?」
「……チッ」
舌打ちしたのは工兵隊の副長。彼は大きなミスを犯し、小さな軍師にそれを見抜かれていた。
予めこの地に伏せてあった二台の投石機。礫石を面で飛ばす為、狙いは大雑把でも問題ない。
だが、もしも狙いが逸れた場合を想定していた李典は、発射に手順を設けて解決するはずだった。一台目で敵の足を止め、微調整した二台目で仕留める。副長は二台を同時に使ってしまったのだ。
とはいえ、手順を聞かされていなかった彼を責めるのは酷だろう。
李典は工兵隊
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