巻ノ百四十三 それぞれの行く先その五
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「様々なことがあり強情になってな」
「その強情さ故に滅んでしまう」
「そうなのじゃ、わしは何度も正室にと言ったな」
「はい」
そうだと言うのだった、秀忠も。
「それは」
「そうなれば右大臣殿も何なくじゃ」
「助けられてですな」
「あの方も救われたが」
「どうしてもそれがおわかりになられず」
「今に至った、わしもあの方のことを思ったが」
それがというのだ。
「どうにもならなかったな」
「振り返ると悲しいですな」
「全くじゃ、しかしそれでもな」
「今日はですな」
「常高院殿を送るが」
しかしというのだ。
「攻めるぞ」
「わかり申した」
「戦国の世を終わらせる為にな」
是非にとだ、秀忠に言ってだった。
家康は城攻めにかかった、言った通りに常高院は送った。彼女にしても必死で姉に訴えた。
「姉上、どうかです」
「降ってか」
「はい、姉上は尼寺に入られ」
「右大臣殿はか」
「一時高野山に入られてです」
そうしてというのだ。
「そのうえで」
「暫し蟄居してか」
「生きられて下さい」
姉に必死になって言うのだった。
「是非」
「そう言うが」
茶々は妹に悲しい顔になり言葉を返した。
「しかしな」
「それはですか」
「妾はせぬ」
こう言うのだった。
「妾は天下人の母、だからな」
「降ることはですか」
「天下人は誰に降る」
妹に胸を張って言った、見れば今もそうした顔だった。
「一体」
「それは」
「そうじゃな、天下人が降ることはない」
「だからですか」
「妾も降らぬ」
「それでは」
「もう覚悟は出来ておる」
常高院に毅然として述べた。
「ことここに至ってはな」
「ご自害為されますか」
「そうじゃ、そなたとお江には済まぬが」
妹達への想いは今もある、幼い頃から苦楽を共にし二度の落城も経てきただけにその絆の強さは殊更だった。
だからこそだ、茶々は言うのだった。
「妾は今日落城となればな」
「腹を切られ」
「誇りを以て死ぬ」
「そうされますか」
「これまで済まなかったのう」
ここでやっと笑みを浮かべて言った茶々だった。
「まことにな」
「いえ、それは」
「よいか」
「はい、姉妹ではないですか」
だからだというのだ。
「それならばです」
「これまでしてくれたこともか」
「当然のこと、お気になさらずに」
「その言葉嬉しく思うぞ」
「ただ、一つお伝えすることがあります」
常高院は茶々、自身の姉にあらためて話した。その話したことはというと。
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