=病院編= ゲキジョウセレクト
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ってきた頃になって、私の研究は一つの仮説を打ち立てた。
彼女が眠っているのは個性の反動であり、その使い過ぎを抑制すればいい。
しかし、彼女の個性は想像を絶する力を発生させるのか、抑制すら上手くいかない。
ならば彼女の個性を分割し、複数の人間で消費することで彼女の眼を覚ませないか。
最大のネックは分割の手段。私の仮説はいつも、そういった肝心なところがブランクだった。
はっきり言って、賭けだった。個性はDNAに依存するとはいえ、彼女の個性の特異性頼みだった。
幸いと言っていいのだろうか。彼女の体は一部が欠損しても個性に再生されているらしかった。
今だから言おう。私はあのとき狂っていた。
何十年もあの子を助ける道を模索するなかで、倫理観を完全に損なっていた。
でなければ何故彼女の体にメスなど入れられるものか。
拒絶反応のない子供を発見した際に狂喜乱舞し、精一杯の伝手で催眠個性の者を雇うだろうか。
或いはこれほど狂えば、彼女が目を覚まして私を叱ってくれると思ったのかもしれない。
私はね、水落石君。君の知らない、君の覚えていない所で。
彼女と君の臓器の一部を交換したんだよ。
「………………」
俺は、自分の顔から感情が抜け落ちていくのを感じた。
同時に、腹のうちに濁流のように押し寄せる感情に任せて立ち上がり、佐栗灰一の胸倉を両手でつかみ上げてあらんかぎりの力で壁に叩きつけた。椅子が倒れて耳障りな音を立て、佐栗の白衣の繊維がぶちぶちと音をたてるのも構わず、自分の手ごと握り潰しそうなほど拳に力を籠める。
「佐栗先生、いや佐栗。お前、お前は……ッ!」
「その怒りは正当なものだ。弁明は敢えてすまい。潔白な人間でないことを私自身が誰より知っている」
その淡々とした態度が余計に癪に障り、胸倉を更に高く上げる。
怒りでどうにかなってしまいそうだった。恐怖でも義憤でも恨みでもない、ただただ怒りだけが俺の脳を支配した。それは闇医者でさえやらないであろう、まさに人間を弄ぶ悪魔の所業だ。実験結果の分からないという、最悪のものだ。
許せない。一生をかけても許せる筈がない。
この個性の源は、この個性を得た理由は、個性で死にかけた理由はすべて、すべて――。
「――その女と俺で貴様、人体実験をしやがったなッ!!」
それは、転生して以来初めて覚える――或いは転生前でさえ感じたことがなかったかもしれない程の、心の底からの激情だった。
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