=病院編= ゲキジョウセレクト
[1/5]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
見慣れた病室の天井を眺め、首を右に傾ける。
そこには高く昇り始めた太陽の光を反射して鈍い輝きを放つ、銅色のメダル。
「わたしが、獲ったメダル。オールマイトから貰ったメダル」
それに手を伸ばし、コーティングされた光沢を指でなぞる。メダルを見ていると嬉しくなる。一人でいる事の寂しさや退屈の辛さを良く知っているのに、一人よがりにそれを見つめることは苦痛には感じなかった。
自分は、本質的には他人と関わって生きていける人間ではない。
例え表面上は繋がっていても、本当は果てしなく遠いのだ。
モニタ越しにしか会えないともだちのように、肌の暖かさを感じる事はない。
そんな自分が、小さなズルをして手に入れた、生きた証。
銅の輝きが、今の自分にはダイヤモンドのそれに勝る眩しさに思えた。
思い出す、あの日の表彰台での言葉を。
『優勝!とまではいかなかったが、果敢な戦いっぷりは見事だったよ。課題はクリアーだとも!』
『あ……ありがとう、ございますっ!私……わたし……やれなかったけど、やりました!』
『そう、君はヒーローとして力を示した!しかし忘れないで欲しい。君は今日、やっと心の底より一歩目を踏み出したのだ。これから成長していく仲間たちとのずっと続く競争の、その一歩目をね』
『え……で、でも。体育祭が終わったら、順番を競うことなんて……』
『テストの点差だって訓練の先着だって立派な順番だ。そこで手を抜けば、いつも頂点を目指しているヒーローに失礼だろう?君は雄英を選んだ。それはつまり、トップを目指す皆に置いていかれぬよう走り続ける選択をしたとも言える。いいかい、争いという言葉だけで受け止めてはいけない』
『皆の事を知り、好きで、そして友達であるならば。相手の力を認めたうえで、切磋琢磨し続けなさい。この体育祭でも、君以外の人間がここに立つ可能性はそれこそ人数分だけあったんだ。そんな彼らに遠慮していると、今度は君が置いていかれてしまうぞ?』
本当に友達だと思ってるなら、ヘンな遠慮をするな――きっと、そんな意味だったんだろう。
今更過ぎて遅すぎる一歩。でも、みんなのヒーローに祝福された一歩だ。
その喜びを、もう足を引っ張らないという決意表明をしに向かったのは水落石の元。しかし、彼は個性の使い過ぎですっかり眠りこけていて、結局帰りの電車ギリギリの時間になっても目を覚ますことはなかった。代わりに皆に色々と聞かれたり爆豪に「二度と手ぇ抜くな」と今までの不甲斐なさを指摘されたり、色々とあったけど、とにかく言える事がある。
「こんな病室のベッドの上からでも、掴めるものがあるんだ」
それは、私にとっての希望。夢の中を、私はまだ生きている。
――と、これでは自分がもうすぐ死ぬみたいだか
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ