03.過去語
ー水城涙ー
過去語ー水城涙ー 一
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い声を漏らす琴葉。前髪に隠れて、其の表情は見えないが、兎に角、気分が良い事は分かった。
雪が静かに積もる。声が静かに聞こえる。時間が何倍にも引き伸ばされ、重力が重くなった様な感じがする。そして―――琴葉はバッと立ち上がり、光の無い瞳を見開いて言った。
―――ようこそ、我等が統べる闇の世界へ。此れから起こるはとある復讐劇の一幕に過ぎない。一度見れば引き返せないのが、此の劇の御約束。破れば一瞬にして消し炭に成る位の覚悟は当たり前。居場所を奪った人間を恨め。居場所を求めて抗え。自分の運命に抗え。一度捨てられた我等にとって、抗う事が生甲斐。抗う事を止める、それは即ち死=B君は如何する。答えて見ろ、此れが最初の試験だ。
スッと部屋が暗くなる。何も置いて居ない、唯の漆黒が広がる、虚無の空間。子供達の声も、姿も見当たらない。在るのは一つの玉座の様な物と、其処に座る琴葉。先程とは違って、黒帽子を被り、黒い胴衣(ベスト)と洋袴(ズボン)、黒い長外套を羽織っている。近寄り難い雰囲気と、冷たい視線。辺りに霧が立ち込めてきて、静かな音が立つ。
「俺は―――」
スッと息を飲み、頭に浮かんだ事を、そのまま琴葉に告げる。
もう何度目かも分からない程見た、琴葉の不気味な笑み。口は笑っていても、瞳は殺気に満ち溢れていて、まるで、獲物を狙う獣の様で。単純な恐怖が心を支配した。
「うふふふ………試験は合格だ。君はもう我等から逃れる事は出来ぬ。覚悟をしておけ」
パッと明るくなる視界。柔らかいソファの感覚が戻り、子供達の声と、部屋の色が戻る。だが、相変わらず琴葉は不思議な笑みを浮かべている。だが、先程と違う点が一つ。此方を指さしていた。
指の方向を視線で追って、その先を見て見ると―――其処には琴葉と同じ様な服が映った。だが、それは畳んで置いてある訳でも無く、乱雑に置いてある訳でも無く。
「んなっ、なんで俺、何時の間に着替えた……!?」
むふふ、と今度こそ気色悪い笑い声を上げる琴葉。俺は琴葉と同じ様な服に、何時の間にか着替えていた。それに、ボサボサに伸びていた髪も整えられている。
此奴、本当に人間かよ、と言う疑問を飲み込み、不気味な笑みを浮かべる琴葉を見る。すると、期待しているよ、と唇だけで琴葉は言葉を作る。
―――俺は、俺と子供達を棄てた人間共に復讐をする。
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