第53話
[2/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
間浮かんだのだ。
それからというもの、袁紹はことあるごとに曹操の上に立とうとして来た。
文学で、算術で、兵法で、だが相手は生粋の天才。どれもあと一歩及ばない。
唯一勝ったのは武芸。座学に比べ自身の武を重要視しなかった曹操は、幼少期から鍛えてきた袁紹に容易く武器を弾かれた。
その時見せた悔しそうな彼女の表情。袁紹の心に何とも言えない満足感が広がる。
あの甘美な味が忘れられず、袁紹はさらなる研鑽に励んだ。
曹操も同様。言わずもがな、彼女も相当な負けず嫌い。模擬戦の敗北以降は春蘭達の武稽古に混ざり、擦り傷をつけながら私塾に通っていた。座学の方も今まで以上に励んだ。
打算を持って接触した二人だが、気が付いた時には互いを高めあう好敵手になっていた。
そんな曹操が、背を見せ敗走している。勝ち、手の内に納めたいと渇望した彼女が。
何を迷う必要があるのか。兵は逸り、軍師達は追撃を進言している。
脅威だった投石機は華雄達により破壊済み。官渡城は魏軍が移動した頃から監視しており、投石機に次ぐ、兵器のような建造品が運ばれていない事も確認している。
魏軍は民を連れ立っての強行軍、道中に仕掛けを施す暇は無い。
第一、このまま魏軍を見逃してどうするのだ。この機を逃せば戦場は許都方面の道中になる、今居る平地とは異なり道幅は狭く、大軍である陽の持ち味が活かせない。
険路を主眼に入れた戦略的撤退だとしたら、道中に罠を張り巡らせられる可能性もある。
事実、魏軍から数百ほどの騎兵が先行して行ったとの報告を受けた。ただの伝令にしては数が多すぎる。
(早く追撃の令を出しなさい。間に合わなくなってしまいますわよ!)
「……」
袁紹の顔に、余裕が無い。
表情は強張り、目は血走っている。
この時、誰か一人でも彼の様子を気に掛ける人間がいたのなら、結果は変わったかもしれない。
しかし、袁紹を含め、陽軍全員の視線は離れていく魏に向けられていた。
桂花にとって曹操は憧れの存在、袁紹に心酔している今でもそれは変わらない。
だからこそ陽国の軍師として、魏軍は最も警戒し、倒さねばならない難敵。
風にとっては友が軍師を務める軍。打破することに熱を上げるのも当然。
賈駆にとっても魏軍とは因縁、泥水関を突破された過去がある。
とは言え、三軍師の中で最も冷静だったのは彼女だ。
だがしかし、総大将の変化に気が付くほど、彼との付き合いは長くなかった……。
袁紹の意思は、危うい均衡で追撃に大きく揺らいでいた。そして――
「麗覇様」
「――ッ追撃開始だ!」
信頼する軍師の、決定を促す呼びかけがその背を押した。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ