第53話
[1/4]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
袁紹が曹孟徳という人物に対して最初に抱いた感情は、恐れだった。
宦官の孫、覇王の器、絶世の美女、そのような人伝の噂話ではなく、関心を持っていたのは正史での活躍だ。
才ある人物を身分問わず重宝し、兵法に長け、詩人としての顔も併せ持つ。文武両道を体現した英雄。
性に奔放で無類の人妻好き、それ故に窮地に陥る事もあったようだが、絶体絶命の危機を幾度も生き残り天運も持ち合わせている。大国、魏を建国し強大な勢力に育て上げた第一人者。
そして――正史において、自身を破る袁家の死神である。
官渡の戦いにて、当時最大勢力であった袁紹軍の河南侵攻を阻んだ。その戦い以降、袁紹の勢いは下火になり、ついには病に倒れ後継者問題で袁家は二分。機を見て河北に攻め上がり袁尚、袁煕を滅ぼした。
袁紹が覇を称えるならば、曹操こそが最大の壁になるだろう。
しかし、曹操の存在を危険視すると同時に、淡い期待を袁紹は抱いていた。
それは――“彼女”が袁紹の理想に共感し、協力してくれるのではないかといもの。
この世界は袁紹の知る知識とは似て非なる。英傑が女性なのが一番の特異点だ。
そんな世界であれば、曹操を説得し盟が得られるかもしれない。そうなれば正に袁紹にお御輿。
乱世となった中華を二大勢力が瞬く間に平定。やがて両者の合意、または婚姻により統一。
両名とその臣下達の手腕を持って、満たされる世の実現……私塾ではそのように働きかけるつもりだった。
当人に会うまでは。
その日感じた雷鳴のような衝撃を袁紹は忘れていない、忘れる事ができない。
私塾の中央、円形の空席の真ん中にポツンと座っていた彼女、曹孟徳。
彼女の自己主張が激しい気配が全てを語っていた。誰かと並ぶ事も、ましてや下に付く事も無い、私こそが支配者だ――と。
彼女に盟を持ちかけても一蹴されるだろう、もしくは体よく勢力拡大に利用されるだけだ。
そして自身の力が袁紹を越えたときこう言う、『私の下で理想を実現なさい』と。
だが袁紹の内から溢れてくる感情が、曹操の傘下に甘んじるという選択肢をかき消した。
その感情とは――一目惚れ? 憧れ? 恐怖? 否、“圧倒的対抗心”である。
握力測定で、イケメンがドヤ顔で出した記録を意地でも越えてやろうと思ったあの時。○
サウナにほぼ同時に入ったおじさんと、アイコンタクトで脳内のゴングが鳴り響いたあの時。●
馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!! と、一対三にもかかわらず勝利を疑わなかったあの時。●
過去感じてきたソレらとは比較にならない、怒りにすら近い対抗心。
言葉にするなら「あんな小娘に、負けるわけにはいきませんわ!」といった感じだ。
何故お嬢様口調なのかはわからない、曹操を見た瞬
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ