暁 〜小説投稿サイト〜
カー女
第三章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 それからも玲は販売所で働き続けた、その車を見る目は的確で客へのアドバイスも見事だった。だがある時に。
 店に売りに来られた車、ベンツのそれを見てだ、玲は即座に顔を顰めさせた。そのうえで店長にそっとこう囁いた。
「店長、あの車は」
「何かあるのかな」
「買わない方がいいです」
「えっ、どうしてなんだい?」
「タイヤのところを見ますと」
 玲はそこを見て言うのだった。
「何度か轢いた跡があります」
「えっ、そうなのかい?」
「タイヤは交換していますが」
 それでもというのだ。
「明らかにです」
「その跡があるんだ」
「妙に浮かんでいます」
 タイヤのところがというのだ。
「何かを轢かないと、それに」
「それに?」
「撥ねてもますよ」
 車の前の部分も見て言うのだった。
「かなり巧妙になおしてますけれど」
「その跡があるんだ」
「はい、多分猫や狸を何度も轢いたり人も」
「撥ねたことがあるんだ」
「あれは事故車ですよ」
 間違いなく、という言葉だった。
「そうした車もありますよね」
「うん、事故車はね」
「色々ありますから」
「じゃああの車は」
「それにです、お客さんも」
 売りに来た者も見た、するとその客もだ。
 悪趣味なパーマに細い鋭い目、河豚の様に腫れた顔だ。大柄で太った身体の動作はかなり傲慢な調子である。
「ヤクザみたいですよ」
「学校の先生だって言ってるけれどね」
「それでもです、多分です」
「ヤクザみたいな人間なんだ」
「わざわざ窓もダークミラーにしていて」
 玲は窓も見ていた。
「もう如何にもですから」
「素性のよくない人か」
「学校の先生こそですよ」
 玲は店長にこうも話した。
「変な人多いじゃないですか」
「そういえば学校の先生のセクハラとか暴力事件多いな」
 店長もネット等の記事でこうしたことは知っている、とかく学校の教師絡みのそうした手の犯罪は異常に多いことを。
「そうだな」
「ですから」
「あの車はか」
「買わない方がいいです」
「そうか、しかしな」
「ただ断ってもですね」
「向こうがどう暴れるかわからないぞ」
 店長はこのことを心配して玲に囁いた。
「それこそ」
「はい、ですから」
「何かいい策があるかい?」
「私が細かくチェックしますから」
 その如何にもな輩が持って来た車をというのだ。
「その査定で買うと言えば」
「返るか」
「あの車何万で買えって言ってますか?」
 一応だ、玲は店長にこのことも確認した。
「それで」
「二百万だよ」
「十万ってところですね」
 その車をざっと見てだ、玲は言い切った。
「とても二百万なんて」
「そんな値段はしないか」
「色々変な細工して新品に仕立てていますけれど」

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ