第八章
[8]前話
「また航海に出たらな」
「その時にですか」
「土産ものを買って帰って来る」
「そうしてくれるんですか」
「またな」
「あの、ですが」
リンダは自分に貝殻をくれた船長に怪訝な顔で尋ねた。貝殻を手にしたうえで。
「船長は今も」
「モビィーディッグか」
「あの鯨を追っているのでは」
「遭った」
船長はリンダにこのことも話した。
「目の前にな」
「そうだったのですか」
「しかし戦わなかった」
船長はさらに話した。
「そしてだ」
「帰られたのですか」
「そうだ」
まさにというのだ。
「そうしてここまで戻ってきた」
「そうだったのですか」
「また会ってもだ」
「もうですか」
「倒そうとは思えない」
心の奥底から憎み倒すことが生涯の全てと考えていた相手だがそれでもだった。
「決してな」
「それは何故でしょうか」
「あんたにまた何かを届けたい」
船長はリンダのその目を見て答えた、視線を逸らすことはしなかった。
「それでは駄目か」
「いえ」
リンダは船長のその言葉に笑顔になった、そのうえで答えた。
「またお願いします」
「それではな」
船長はもうモビィーディッグのことを追うことはなくなった、そしてリンダとの距離を縮めていきやがて彼女を妻に迎えた。それと共に船長を辞めて船のオーナーとなって一生を過ごした。リンダとの間には二人の娘が出来娘達が結婚して孫達の顔を見てから世を去った。その時の顔は非常に穏やかで満ち足りたものであったという。
エイハブ船長の恋 完
2018・4・18
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