第六章
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「あんたもな」
「彼女をか」
「ああ、話を聞いて受け入れてな」
そうしてというのだ。
「付き合うなりしたらいいさ」
「このわしがか」
「それで遅くなったがな」
「結婚か」
「それもしたらいいだろ」
こう言うのだった。
「鯨漁にしてもな」
「日本まで行ってもだな」
「そうだよ、別にモビィーディッグを見てもな」
仇敵であるこの鯨をというのだ。
「別にいいだろ」
「あいつを倒さずともか」
「他に大事なものを手に入れたらな」
その時はというのだ。
「別にいいだろ」
「普通に漁をしてか」
「やっていけばいいさ」
「そういうものか」
「ああ、それに最悪鯨漁をしなくなってもな」
「海にいればだな」
「あんたは生きていけるんだ」
船長程熟練の海の男ならというのだ。
「貿易船でも普通の漁の船でも大丈夫だろ」
「そうした船に乗ったこともある」
「だったらな」
「あいつもこだわらずともか」
「ああ、生きていけばいいさ」
こう船長に言うのだった、船長はこの時は返事をせず黙ってラム酒を飲んだ。
だが出港の時になってだ、彼は見送りに来た娘に問うた。
「あんた名前は」
「あの、船長さんからですか」
「声をかけた」
これまではなかったがというのだ。
「気が向いてな」
「そうですか」
「そうだ、それで名前は何だ」
「リンダです」
女は自分の名を名乗った。
「リンダ=クラッソンです」
「そうか、フランス系か」
「はい、元々は」
「わかった、じゃあリンダさん」
船長は笑っていない、だが自分から彼女に言うのだった。
「帰ったらあんたに一杯な」
「おごってくれるんですか」
「そして話を聞かせてくれ、いいか」
「はい、是非」
リンダは船長の言葉ににこりと笑って応えた、その笑顔を見てからだった。
船長は船に乗った、そうして鯨漁に出てだった。
日本近海で鯨を獲りその油を手に入れていた。鯨はその油が大事で社会にとって貴重な燃料になっていたのだ。
その漁が一段落してアメリカに帰ろうという時にだった。
船の目の前に巨大な白い鯨が現れた、その異様な鯨を見てだ。船に乗っている誰もがわかった。
「あのマッコウクジラは!」
「間違いないぞ!」
「モビィーディッグだ!」
「モビィーディッグが出て来たぞ!」
その異様なまでの巨体を見て叫んだ、その大きさは普通のマッコウクジラの優に数十倍はあり船なぞ一飲みだった。
「何て大きさだ」
「化けものか」
「あんな鯨に襲われたら」
「こんな船ひとたまりもないぞ」
「しかし」
ここでイシュメール達は船長を見た、彼等は船長のモビィーディッグへの執念と憎悪を知っていた。
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