第五章
[8]前話 [2]次話
「いつもな」
「聞くだけだよな」
「断っている」
聞いたうえでというのだ。
「そうしている」
「そうか、しかしな」
「しかし。何だ」
「あんたもそろそろあの娘のことを覚えてきただろ」
「いつも声をかけられているのだ」
交際して欲しいとだ、今もというのだ。
「それならな」
「そうだよな、じゃあ今日もな」
「あの娘の話をか」
「聞いてやればいいさ」
「聞くだけだがな」
それでだけだということはだ、船長は不愛想な声で述べた。
「本当にな」
「それでもいいからな」
「今日もか」
「聞けばいいさ」
「わしの何処がいい」
船長は自分のことを思った。
「一体」
「だから海の男だからだろ」
「それでか」
「海の男独特のよさがあってな」
船長にはというのだ。
「ゴロツキ共だって何なく蹴散らしただろ」
「だからあれはどうということはない」
「そこでそう言うところもな」
「いいのか」
「いい海の男でな」
「馬鹿を言え、わしの頭の中にあるのはな」
「あの鯨だけだな」
「そうだ、あいつを見付け出し」
そしてというのだ。
「わしのこの手でだ」
「倒すんだな」
「それだけがわしの願いでだ」
「あんたの全てだな」
「あいつは絶対にいる」
「何処にいるかはわかってるんだな」
「日本の近くだ」
当時鎖国していて入ることの出来ないこの国だというのだ。
「あの近くにいる、足を食われた時もだ」
「あそこでだったんだな」
「そうだった、だからだ」
「あそこに行くとか」
「あいつがいてだ」
そうしてというのだ。
「必ずだ」
「見付け出してか」
「その為の備えも幾つも用意している」
「そしてその備えでか」
「あいつを倒す」
こう言う、だが。
ここで船長は気付いた、これまで執念と憎悪に燃え盛って言っていた。しかしその声がだったのだ。
その執念と憎悪が薄まったいた、それもかなり。
それで船長はこのことに自分自身が驚いて言った。
「いや」
「いや?どうしたんだい?」
「わしは憎くないのか」
「モビィーディッグがかい」
「恨んでいないのか」
「あんたの人生の全てだろ」
「そうだ」
親父にはこう返した。
「まさにな」
「それが変わったのかい?」
「そんな筈がない」
自分のその考えを否定した言葉だった。
「わしは、だが」
「まあな、あれだよ」
親父は船長の考えはわからない。だがこう言うことは出来た。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ