第三章
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後日だ、ただ酒を飲んでいる船長に助けてもらった娘が言ってきた。赤髪を後ろで三つ編みにして束ね顔にそばかすがある青い瞳の娘だ。
「あの、先日のことですが」
「あんたを助けた時のことか」
船長は娘に飲みつつ応えた。
「あの時か」
「はい、あの時のことですが」
「今度から気をつけることだな」
「そうします、それでなんですが」
「まだあるのか」
「はい、実はあの時の船長さんを見た人がいまして」
娘は船長におずおずと話した。
「お話したいと言ってます」
「誰だ」
「お店の外にいまして」
「そうか、じゃあ少しな」
「はい、お店の外に出られて」
「会おう、しかしな」
「しかし?」
「船の話なら間に合っている」
船長になる話ならというのだ。
「わしはもう自分でだ」
「船を持っておられますね」
「その話ならいい、乗りたいならな」
自分の船にというのだ。
「それならそれでいいが」
「来る者は拒まずですか」
「去る者は追わずだ」
乗りたいなら乗ればいい、降りたければ降りればいいというのだ。船長はこうしたことには極めて寛容だ。
「その話ならいいがな」
「それじゃあ」
「ああ、とにかくな」
「これからですね」
「会おう」
こうしてだった、船長は一旦店を出てそこでその者と会うことにした。船長は最初船の話かと思っていたが。
そこには船長に誘おうとする船のオーナーでもなく船乗り志願の若者でもなくだ。店の娘と同じ位の年齢の黒髪に黒い瞳を持つ背の高い少女がいた。白い顔に紅の唇がよく似合っている。着ている服は長いスカートにブラウスにエプロンとこの辺りの居酒屋で働いている娘の服だった。
その娘がだ、船長に対して言ったのだった。
「あの、先日のことですが」
「ゴロツキ共を叩きのめしたことか」
「はい、たまたま見ていたのですが」
「何てことはない」
船長は娘に素っ気なく答えた。
「別にだ」
「大したことではないですか」
「あの連中は余所者だがここは港町だ」
それならと話す船長だった。
「荒くれ者も多いだろ」
「はい、それは」
「それなら喧嘩もああしたこともだ」
「よくあることだからですか」
「どうということはないだろ」
こう娘に言うのだった。
「本当にな」
「はい、ですが」
娘は素気ない船長にさらに言った。
「ずっと見ていてあまりにも素敵だったので」
「素敵?わしがか」
「はい、とても」
「変なことを言うな」
船長は娘の今の言葉に眉を顰めさせて言葉を返した。
「わしは特にな」
「素敵とはですか」
「そんな筈があるか」
娘の言葉を即座に否定した。
「わしがな」
「素敵とはですか」
「有り得ない」
また否定の言葉を出したのだった。
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