214部分:第十五話 抱いた疑惑その十八
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第十五話 抱いた疑惑その十八
「ほっとしたわ」
「何でなんだよ」
「いや、それはね」
慌てて自分の感情を隠して返す。
「まあ何ていうか」
「何ていうか?」
「何でもないから」
今度は誤魔化した。
「それは」
「何だよ、何もないのかよ」
「うん、何でもないから」
「だったらいいけれどな」
「うん。それじゃあ」
前を見た。既に駅を出ていて二人で夜の道を歩いている。その中での言葉だ。夜の街灯の周りに虫達が集まっているのが見える。
「そろそろね」
「ああ、御前の家この辺りだったよな」
「うん、だからね」
「もうすぐお別れだな」
「久し振りだったから」
ついつい顔を赤くさせる。しかしそれは夜の中に隠れてしまっていた。
「嬉しかったわ」
「嬉しかったって?」
「だから。一緒に帰って」
その密かに赤らめさせた顔で話す。
「それでこうして話したじゃない」
「それがか」
「そうよ。それが楽しかったから」
本音を言っていた。だが陽太郎はそれには気付かない。
「有り難う」
「おいおい、お礼なんかいいよ」
陽太郎は星華のその本音に気付かないまま応えた。
「そんなのさ」
「いいの?」
「いいよ、だって俺と佐藤の仲だろ?」
その彼女の気持ちに気付かない言葉であった。
「だったらいいさ」
「私と斉宮の?」
「だからいいさ」
また言ってしまった。気付かないうちに。
「そんなのさ」
「いいの」
「そんなに気を使わなくていいさ。それじゃあさ」
「ええ、それじゃあ」
「またな」
「明日ね」
別れは星華の家の前でだった。別れは穏やかでありふれたものだった。しかし星華の心中は次第にありふれたものではなくなろうとしていた。楔が打ち込まれようとしていた。
第十五話 完
2010・7・27
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