閑話 それぞれ1
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シドニー・シトレ大将。
自由惑星同盟宇宙艦隊司令部。
艦隊司令官ともなれば個室が与えられ、分厚い机が設置される。
豪華な部屋ではあるが、この部屋に実質いる日数を考えれば、無駄だとも感じる。
雑談を好む彼――第八艦隊司令長官シドニー・シトレ大将にとっては大部屋の方が好きだった。
誰も好き好んで艦隊司令官の部屋を訪ねてくるものはいない。
ましてや雑談をしに来る人間など、皆無であった。
「つまらんものだな」
大きな唇をへの字にして、シトレは積みあがった書類に目を通す。
とはいえ、それもまた定型的なものであって、複雑で許可が必要なものであれば、必ず誰かが説明に来るのだから、形だけといったところであろう。
艦隊の訓練計画や人事案をつらつらと眺めれば、眠気も襲ってくるというものだ。
「偉くなるのはいいが、書類仕事が増えるのはどうにかならんものかな」
それがだめなら、いっそのこと部屋を大部屋に変えるか。
書類仕事をしながらでも、雑談相手がいるというのはいいものだ。
部下にとっては、間違いなく迷惑なことを考えていれば、扉が叩かれる音がした。
今日の予定表を見れば、二時から来客があった。
すっかり忘れていたと、いそいそと書類をまとめて、返事をする。
一秒後に、厳しい顔を作った老年の男性が入室する。
白髪をオールバックにした身長の高い男性だ。
背中に定規を入れているかのように姿勢の正しさに、シトレは変わらないなと笑った。
「久しいな、スレイヤー少将」
「ご無沙汰をしております、シトレ大将」
おそらくはマナー講座の教師にでもなれるほどに、一度の狂いのない丁寧な礼をして、スレイヤーは室内に入っていった。
「私が学校を出てからだから、四、五年ぶりか」
「四年と十二か月振りとなります。シトレ大将もお忙しいようで」
「何、書類仕事が厄介なだけだ。本当はもっと学校にも顔を出したかったのだがな。階級があがれば、ふらっと歩くこともできない、困ったものだな」
「そう思うなら、ずっと部屋にいてください。急な説明に伺うと、必ずどこか遊びに行っていると副官が困っていました。昨日など国防委員の予定を忘れていて、大捜索されたそうじゃないですか。可哀そうに、艦隊司令部を下から上まで走りまくったそうです。今頃は全身筋肉痛でしょうな」
「い、いや何、司令官たるものいろいろな人間と話をするというのも仕事のうちだ。それに今日は忘れてないからいいじゃないか」
「国防委員を待たせるなら、私を待たせておいてください」
「はっは、相変わらずだな。スレイヤー少将」
厳しくも静かな怒りを受けて、シトレは笑って誤魔化そうとした。
「笑っている場合ですか。ここは学校と違って、最前線なのですよ。司令官とし
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