閑話 それぞれ1
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ができない。
それができるのが、フェザーン回廊であり、そして百年以上もの戦闘を続けているイゼルローン回廊ということだ。
百年以上変わらず。
馬鹿らしいことであるが。
「ラインハルト様」
ゆっくりと遠ざかるイゼルローン要塞を眺めていたラインハルトは、思考をやめる。
赤毛の青年が静かな面持ちで、こちらを見ていた。
「お邪魔でしたか」
「いや、そうでもない。つまらない考え事をしていただけだ」
「いろいろとありましたね」
何とも言えない表情で、キルヒアイスも窓から遠ざかるイゼルローン要塞を見つめた。
先日の、ラインハルトが昇進することとなった一件のことを思い出しているのかもしれない。
「別に考えるほどのことでもなかった」
キルヒアイスにしては十分すぎる印象であったが、ラインハルトにとってはそうでもなかったらしい。不機嫌そうに切り捨てるような言葉が子供のようで、何を考えていたのかキルヒアイスは理解ができた。
「アレス・マクワイルド中尉のことですか」
「誰だ、それは」
不機嫌な表情そのままに、眉を寄せながらラインハルトが答えた。
それにキルヒアイスは微笑。
「お調べになるように言われたのは、ラインハルト様では」
「何を調べ……いや、そうか、カプチェランカの奴か」
怪訝さを増したラインハルトの表情が明るくなり、身を乗り出すように体を持ち上げた。
そんな様子を嬉しそうに見ながら、落ち着いてくださいと言葉にする。
ラインハルトは照れたように、座りなおした。
「随分と遅かったじゃないか」
「申し訳ありません」
「いや、いい。反乱軍の一部隊の兵士の名前を調べるのに骨が折れただろう。それで」
答えを急ぐ様子に、キルヒアイスは珍しいと目を開けた。
出会って十年近くにもなるが、主君であり友人でもある彼が人に対して興味を持つというのは初めてにも思えた。
あの戦いは敗戦であったが、彼にもそしてキルヒアイスにも学ぶべき点は多かった。
そう考えようとして、さらに急かそうとする様子に、キルヒアイスは首を振った。
これ以上待たせれば、拗ねた彼をなだめるのに大変になるだろうから。
それにラインハルトの驚いた顔を見るのも久しいこと。
「お伝えしましたが。敵の指揮官の名前はアレス・マクワイルド中尉。カプチェランカで中尉に昇進後、現在は後方勤務本部の装備企画課で勤務をしているようです」
「装備企画課?」
伝えた言葉に、しかし、キルヒアイスが望む表情を引き出すことはできなかった。
片眉をあげたままにとどまった。
「ええ。驚きませんでしたか」
「ふん、どこにでも無能な人事というものはいるものだ。まだ若かったからな、妬まれたというところだろう。なんだ、驚かないのが不満か
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